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小説=「森の夢」=ブラジル日本移民の記録=醍醐麻沙夫=12

2024年7月27日

 だが実務家的な面もあった。農場入りに備えて日常単語をコツコツと覚えておいたのも、その一面である。それが仕事だといえばそれまでだが、他の通訳たちは必ずしもそうではなかった。
 運平が列車の中でサトウの単語を教えていた、ほぼ同時刻に、一日前にフロレスタ農場に着いていた金縁メガネの大野通訳は、移民の買物についていって「酢」という単語を知らずに目を白黒させていたのだった。液体では手真似の仕様がないので、口に酢を含んだ表情を懸命にして見せたのだが、遂に相手に通じなかった。
 汽車は火の粉をまき散らしながら、ひどく車体をゆすって大平原を走り続けた。緑の森林におおわれた丘が...

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