site.title

小説=「森の夢」=ブラジル日本移民の記録=醍醐麻沙夫=83

2024年11月20日

 謙蔵は両の掌でかかえて茶碗を運平の方へ差し出したが、相手の硬ばった表情に気付くと、ギョッとしたように横を向いて、寝ている妻を見た。
「……」
 茶碗を持つ手がブルブルと震れはじめた。
「クノ……お前……」
 謙蔵はふらふらと妻の傍に近付いた。
「あ、あ……あ」
 茶碗が落ちて死んだクノの胸にわずかの米が散らばった。まだ軟らかい乳液のような半固体だった。とても臼などではつけない。謙蔵は一粒一粒爪でモミをはがしてやっと茶碗の底にたまるほどのものを集めたにちがいなかった。
「クノ……クノ…:。お前が死んだら俺はどうするんだ。静加と二人で熊本へ帰るのを楽しみ...

会員限定

有料会員限定コンテンツ

この記事の続きは有料会員限定コンテンツです。閲覧するには記事閲覧権限の取得が必要です。

認証情報を確認中...

有料記事閲覧について:
PDF会員は月に1記事まで、WEB/PDF会員はすべての有料記事を閲覧できます。

PDF会員の方へ:
すでにログインしている場合は、「今すぐ記事を読む」ボタンをクリックすると記事を閲覧できます。サーバー側で認証状態を確認できない場合でも、このボタンから直接アクセスできます。

Loading...