米国在住や渡航希望の研究者=トランプ政策で混乱、断念
トランプ米大統領による50%関税通達は経済界を中心に衝撃を与えたが、同氏の移民政策や大学包囲政策は同国在住または同国渡航を望むブラジル人研究者やブラジル人学生を困惑させ、研究や留学のための渡航を断念する人も起きていると12日付アジェンシア・ブラジル(1)(2)が報じた。
一例はサンドイッチ博士課程奨学金で、ハイレベル人材養成業務統括所(Capes)によると、少なくとも96人のブラジル人研究者が米国での研究を断念したという。
この奨学金はブラジルでの学びを補完するために国外の高等教育機関で研究を行うことを希望する博士課程の学生に提供されるもので、授業料や渡航費、健康保険など、プログラムに応じた様々な特典を持つ。学生は異なる学術環境を体験し、知識と人脈を広げることができる上、新たなデータや技術にアクセスし、国際的なパートナーシップを構築する機会も得られるが、ブラジルでこの奨学金を受けることができた学生中、最低96人が渡航先変更や研究延期を決めている。Capesは同奨学金の取得可能な機関の一つだ。

デニゼ・ピレス・デ・カルヴァーリョCapes会長は、渡航先変更や研究延期は、トランプ政権による絶え間ない攻撃と教育機関への研究資金削減により、大学や研究者の双方にとって不安定な状況が生じている証拠と見ている。同会長は「米国ではいくつかの研究分野が阻害され、プロジェクトが削減されている」とし、米国のビザを申請する前に先のような決断をした研究者が出ていると強調した。
同氏によると、現時点ではブラジル人学生に対する公式の制限やブラジルのプログラムによる米国への奨学金削減は起きていないが、国際的な状況を受け、申請が減っているという。昨年の米国向けの奨学金授与は880件で、今年は1200件が目標だったが、実際には350件に止まる見込みだ。
同氏は「米国が科学の面で増々閉鎖的になっていることはブラジルや世界の科学に大きな影響を与えるが、他の国で科学が発展するのは良いこと」とし、留学先国変更の用意があり、ブラジルに戻ったら新技術を実用化できるという。10年間の奨学金は約9千件が米国、49件が中国、84件が南アフリカ向けだった。
トランプ政権による大学攻撃や予算削減、社会問題に焦点を当てた研究への集中的な批判は、米国にいる研究者にとっても深刻だ。同政権が攻撃するハーバードやコロンビア、スタンフォードといった世界有数の名門大学で学び、学びたいと考える世界中の研究者が不確実性に不安を覚えている。

ミナス州サンジョアン・デル・レイ大学哲学教授でニュージャージー州ラットガーズ大学の博士課程研究員として米国に滞在中のマルコ・アウレリオ・ソウザ・アルヴェス氏は一例で、07年から7年間米国に住み、博士号を取得し、14年に帰国。だが、再び戻った米国では大学や学会が政府から攻撃され、資金も削減された上、移民への攻撃もある等、まるで違う国になっており、ポルトガル語を話すことにも不安を感じるという。
ミナス連邦大学で哲学を専攻する修士課程のヴィクトル・アンジェレッチ氏は博士号取得のため、アルヴェス教授の助言を求め、米国の奨学金に応募したが、5月にフルタイムの博士号取得のために勧められたフルブライトの奨学金停止を知らせるメールを受け取った。彼が応募した奨学金の対象はブラジル人学生で、両国の大学間の橋渡しとして機能していたが、この奨学金が停止となった。他の選考プログラムに参加すれば、世界中の学生との競争となる。フルブライト・ブラジル事務局は奨学金の内容変更はよくあるというが、米国が牽引する哲学における奨学金終了はブラジル側の大きな損失となる。
リオ・グランデ・ド・スル州立カトリック大学法学教授でブラジルにおける極右台頭とファシズム現象を研究しているアウグスト・ジョビン氏は、今年初めに米国での客員教授職を取り消された。同氏が指導していた学生はトランプ政権からの攻撃を懸念し、米国への出願を断念。英国とイタリアに渡航した。
ブラジリア大学の歴史学教授ラウラ・デ・オリヴェイラ氏は、冷戦期の米国がブラジルの出版社による反共産主義出版物にどんな資金を提供していたかやアマゾンで行われたとされる米国の生物兵器実験などを調べており、米国での研究継続を望んでいる。彼女は2011、17年は米国での研究が叶ったが、今回はビザ取得さえ不確かで、ビザが出ても、入国審査やアーカイブへのアクセスで不利益を被る可能性があることを案じている。