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マイゾウ・メーノス(まあーまあー)の世界ブラジル(28)=サンパウロ 梅津久

2025年7月29日

第21話―鯛とローソクの頭

 もう20数年前になりますが、企業研修で訪日し、研修期間中いくつかの工場を回って研修を受ける機会がありました。その中で東北の小さな都市近郊の工場を訪れ、工場見学をさせて頂いた後に、工場長から現場運営の説明を受けた中に、「鯛はどこから腐るかしっている?」と聞かれ「腐りやすいのは頭ですか?」、それでは「ローソクはどこから燃える?」、「上からです」と答えると、「その通り、“鯛は頭から腐り、ローソクは頭から燃える”。組織、チームの上に立つ人はこの言葉を肝に銘じなければならない」と云われたことがあります。

 それから、私はこの言葉を毎年の手帳のトップページに手書きしてきました。“鯛は頭から腐り、ローソクは頭から燃える”「トップが腐ったら、その組織は全てが腐ってしまう。トップが燃えたら、その組織は完全燃焼する」と理解して、腐らすことは出来ない。ローソクのように風で火が消えそうになっても、仮に火が消えても、また火をつけて、全部燃やし尽くさなければならない、それがトップの役目だと常に肝に銘じて進んできた。

 次に好きな言葉に、“学ばない者は他人を責める、学んでいる者は自分を責める、学び終わったものは誰も責めない”、“学ぼうとしなくなったら、おしまいである”や“学ばない者は、老人である”。

 ようは“生涯学び続ける”である。何事にも興味を示して、他人の話を聞き、学び、知識・経験を増やしてきた。それでも一番困り、苦労したのは、もともと電子技術専門である私が、電子製品企業から機械製品企業に転職した時である。それも自動二輪車製造・組立工場である。部品製造工程、製品組立工程が解るはずもなく、素材・部品の名称も一から覚えなければならなかった。

 現物、現場で話している時は良いのですが、電話での会話になると、これは困った。全然イメージが出てこない、サービスマニュアルの図解を見ながらの電話会話が続いた。自前の専門用語辞典ファイル(現在のSami Culturaサイトの翻訳辞書モジュール)を作成しはじめたのもこの頃からであり、それで2―3年で工場管理には困らなくなっていた。

 好きな言葉の裏に、私が一番嫌うことは、ようするに自分で学び覚えようとしない“オフィスボーイ”の様な人で、他人から聞いたこと、部下のやった仕事をそのまま上に伝える管理職である。

 特にイヤなのは、部下の作成した資料をそのまま丸投げで発表説明する者である。説明会で、「ここどうしてこんなになるの?」、「条件を変えたらどうなるの」と質問すると、それまで意気揚々と説明していた者が、ウロウロし始め質問とは全く違った答えが返ってくる。そして資料の条件変更が出来ず、私が助け舟で「ほら、この資料の、この部分をこう変えたら、数値が変わり、グラフが変わるでしょう」と云ってやっても、それがどこなのか解らず、ラチが上がらない。

 こんな“オフィスボーイ”の管理者は次々と組織から外してきた。見づらく、解りづらくとも、自分なりに一生懸命作成してきた資料を褒めてやり、改善のアドバイスを与えてきた。

 さらにイヤになるのが、言い訳だけをする者。何事にも“物”であったり“人”であったり他の責任にして言い訳をする。「じゃーおまえ何をしたの?」と聞いて、また言い訳、他人の責任にする。このような者は自分で責任と向上心を持って組織やチームを引っ張るって行くことは出来ない、バイバイさようならである。

 それと、通訳と翻訳を通して物事への理解度を上げてきた。通訳、翻訳をするにはまず自分が良く理解しなければ正確な通訳・翻訳ができない。そのために自分が良く話を聞き、文章を読むようになった。その結果、ブラジル語で話ができるようになり、簡単な文章は書けるようになった。それでも記憶力の弱いわたしは、人以上に繰り返し覚えないと記憶できない、それは時間で稼ぐしか私にはできなかった。

(つづく)


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