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サンパウロ市役所=市民の安心を先端技術で守る=「スマート・サンパ」構想

2025年7月24日

総合モニタリングシステム「Smart Sampa」司令部(写真=PMSP_Central Smart Sampa)
総合モニタリングシステム「Smart Sampa」司令部(写真=PMSP Central Smart Sampa)

 サンパウロ市は今年、市民の生活に深刻な影を落とす街頭犯罪の抑止に向け、自治体史上最大規模の治安強化策を打ち出した。中心となるのは、最新の監視カメラ網と人工知能(AI)を駆使した総合モニタリングシステム「Smart Sampa」だ。

 市によれば、2023年に始まったこの「Smart Sampa」プロジェクトでは、すでに約2万5千台の監視カメラを設置し、顔認識技術を運用している。導入後半年で、刑期中の逃亡者1044人、現行犯逮捕2289人、行方不明者60人の特定に至ったと報告されており、うち逃亡者検挙の一例では通行中の容疑者を16分以内に特定・制圧したという迅速な連携が注目されると4月27日付エル・パイス紙(https://elpais.com/america/2025-04-27/sao-paulo-un-gran-hermano-de-25000-camaras-y-reconocimiento-facial-contra-el-crimen.html)は報じている。

 このシステムの誤認識を防ぐため、市は顔一致率が92%以上の完全な一致時のみ警告を発するという厳格な運用を徹底し、「精度と安全性の両立を実現している」と強調している。費用は月額1千万レアル(約1・7億円)に上るが、「市民の安心を買う価値がある」とする市当局の姿勢が際立つ。

市政の治安革命

 前市長時代より積み上げてきた治安政策を引き継ぎ、リカルド・ヌネス市長は昨年から「スマート治安」戦略を本格化した。特に注目されるのが、Guarda Civil Metropolitana(市警備隊/GCM)の「警察的」役割強化と、民間との連携拡大だ。

 今年3月、市議会はGCMを「Policia Municipal (市警察)」として再定義する条例を可決。しかし、州検察や最高裁が「警察権を持つ」とする改称に対する差止めを出すなど法的な反発も続いている。

 それでも、GCMの役割は拡充中だ。教育施設・公共施設にパトロールを展開し、環境保護、公共財保全など多面的に職務を拡大するほか、「Smart Sampa」と連動した容疑者特定の迅速対応にも当たっている。

ガバナンス強化:制度と予算を再編

 市当局は治安行政の制度基盤も整備を急いでいる。今年5月には、治安部門の政策立案・モニタリングを担う「都市安全プラン(Plano de Segurança Urbana)」が策定された。これは四つの目標、30の施策、九つの成果指標で構成され、従来の専門委員会から新設の「安全市民評議会(COMSU)」や「都市安全基金」設置の道筋を示すものだ。

 また昨年の当初予算では、市自治体の治安部門に約14・5億レアル(約24億円)の予算を配分。うち主力施策である「Smart Sampa」およびGCMや「Operação Delegada(委託警備)」に充てられる資金が大きな割合を占め、制度・予算・組織を三位一体で強化する構えだ。

地域と議会の監視機構:市民参画と透明性

 治安対策を推進する一方、市議会では監視と議論の枠組みも拡充されている。委員会は定期的に「Smart Sampa」の運用現場を視察し、PSIU(騒音・生活環境改善プログラム)の適正運用や、公共空間における民間警備との協調などを常時点検している。

 とりわけ、2024年に問題となった「クラコランディア(Cracolândia)」の隔離壁設置や公共スペースでの巡回など、人権とのバランスを巡る議論を議会が牽引してきた。市の予算策定プロセスでは、警察人員強化と「Smart Sampa」優先を盛り込む予算配分比率の増加を目指しており、都市治安に充てる市予算を現状の1・3%から3%への拡大を目指す動きも市議会で出ている。

課題と展望:安全と自由のせめぎ合い

 技術を活用した治安強化には明らかな効果が見える一方、プライバシーの侵害や監視社会化を懸念する声も多い。識者は、顔認識技術が特定の人種・性別グループで誤認を生みやすい構造的偏りを指摘し、透明性ある運用と外部監査の必要性を強調する。

 また、州警察や市警察の役割分担を巡る法制度上の課題も残る。市警察化を推進するGCMへの反発は、自治と州との権限バランスを問い直す契機ともなっている。

 サンパウロ市は、犯罪抑止や市民の安心確保のため、都市規模を超えた「公共監視」の最前線に立つ姿勢を明確にした。AIによる犯罪予防の成果は確かに現れているが、同時に市民の自由や新たな権力構造への慎重な対応も不可欠だ。その狭間で、市は透明性と監査によって、技術と民主主義の両立を果たせるのか。今後の運用と議会の関与が問われている。


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