モラエスVSボルソナロ=対立の根本にある制度的危機

汚職撲滅を目的とする国際的非営利組織トランスペアレンシー・インターナショナルは22日、政治的対立の渦中にあるアレシャンドレ・デ・モラエス最高裁判事とジャイール・ボルソナロ前大統領の双方に過誤があると指摘し、ブラジルが直面する深刻な制度的危機の現状を強調した。司法権行使や政治的介入の是非を巡る議論が続く中、この問題は国内外に波紋を広げていると22日付BBCブラジル(1)が報じた。
ボルソナロ氏に対するモラエス判事の一連の制限措置は、両者の対立をさらに激化させている。モラエス判事は19日、ボルソナロ氏に対し、電子足輪の装着、夜間および週末の外出禁止、大使館周辺への立ち入りや外交官との接触禁止といった複数の制限措置を科した。さらに、21日にはSNS利用を禁じる措置を拡大し、ボルソナロ氏が第三者のアカウントに登場することも違反と見なす決定を下した。
これに対してボルソナロ弁護団は制限措置を遵守していると主張し、「本人はSNSを利用しておらず、第三者にも依頼していない」と強調。モラエス判事の制限措置はインタビュー禁止には及ばないはずとし、SNSにおけるボルソナロ氏登場に関する法的明確さを求めている。
この対立を受け、トランスペアレンシー・インターナショナルブラジル支部のブルーノ・ブランドン事務局長は「この件ではいずれの側も正しくない」と指摘し、ブラジルが直面する制度的危機の深刻さを警告した。「こうした制度の機能不全はブラジルのみならず、近年の米国にも見られる現象であり、民主主義の基盤そのものが揺らいでいる」と述べ、ボルソナロ政権が制度を故意に損ね、結果的に最高裁が過剰な対応を強いられているとの見方を示した。
ブランドン氏は、ボルソナロ政権が抑制と均衡の仕組みを損なったことが制度的崩壊の引き金となり、その象徴として「完全に従属的なアウグスト・アラス氏の連邦検察庁(PGR)の長官任命(当時)」を挙げ、これにより検察の独立性が失われ、大統領の法的責任追及が妨げられたと批判した。そのため、最高裁が本来の枠を超えて積極的に対応せざるを得ない状況が生まれてしまい、「憲法上の限界を逸脱した乱用」になっているとの認識を示した。
そのため、同団体はモラエス判事による一連の判断について疑問を呈しており、モラエス判事自身が「暗殺未遂の標的となった上で、その共謀者とされる人物の裁判に判事として関与している現状は、司法の公平性に対する信頼を著しく損なう」と批判した。
同団体は、トランプ米大統領による対ブラジル関税措置やモラエス判事へのビザ取消しについても、「政治的圧力による内政干渉」として非難している。ブランドン氏は「たとえ最高裁の行動に対する批判が正当であったとしても、米国の措置は法的根拠に乏しく、明らかに政治的動機に基づいており、国家主権と司法の独立という基本原則を侵害する」と述べ、米国の行動がブラジルの民主主義再建に寄与しないことを指摘した。
米国が通商分野で発動した「セクション301(米貿易法第301条に基づき、他国の不公正な貿易慣行に対して制裁措置を課すもの)」に関する調査についても懸念を表明。「反汚職分野における後退を理由とする一方で、透明性と一貫性を欠いている」とし、声明では「米国自身も制度的健全性において著しい後退を経験しており、他国に制裁を課す立場にはない」と批判している。