「ブラジルの民主主義は米国上回る」=ハーバード大学教授が警鐘鳴らす

「ブラジルは今や、米国よりも民主主義のシステムが機能している」との見解が、ベストセラー『民主主義の死に方―二極化する政治が招く独裁への道』著者で、米ハーバード大学政治学者のスティーヴン・レヴィツキー教授によって示された。22年のブラジル大統領選挙後の対応が、20年の米大統領選後の混乱への対応を上回ったと指摘し、ブラジルの民主主義の回復力を高く評価したと22日付BBCブラジル(1)が報じた。
22年のブラジル大統領選挙直後に発生した、ボルソナロ前大統領の支持者による三権中枢施設襲撃事件に関して、レヴィツキー氏は「ブラジルの選挙制度と司法機関は適切に機能し、民主的手続きを守った」と評価。ボルソナロ氏は最終的に選挙結果を受け入れ、結果を支持する立場を取ったことで「政治的安定を取り戻し、ブラジル民主主義の堅固な基盤を立証した」と分析した。
一方、20年の米大統領選挙後、トランプ氏が選挙結果に異議を唱え、支持者を扇動して起こした米議会襲撃事件について、「事件後に発生した政治的混乱と分裂が、民主主義の根幹を揺るがし、制度的な反応が遅れたことは非常に懸念すべき事態だった」と述べ、「米国も民主主義は機能して政権交代は行われた」と評価する一方で、「ブラジルの方が司法や警察の対応が迅速かつ冷静に行われ、民主的手続きが維持された」と強調し、両国の対応の違いを強調した。
ブラジル最高裁についても、ボルソナロ前政権下での圧力に対して法的な枠組みを厳守して権力乱用を防いだ点を評価し、「民主主義を守るために重要な役割を果たした」と述べた。一方で「司法権が強くなり過ぎると制度のバランスが崩れ、最終的には民主的プロセスそのものが損なわれる可能性がある」と警告し、司法権限行使の適切さに引き続き注意が必要だと強調した。
「(最高裁のように)選挙で選ばれていない機関が政策決定に関わった判断を行う場合、それは民主主義において非常に危険な領域に踏み込むことになる」とし、現在進行中のボルソナロ氏に対する訴追については「最高裁は現状においてその本来の役割を果たしている」と評価。裁判所の役割として「同氏を公正に審理し、有罪が確定すれば適切に罰することが求められている」と述べた。
他方、トランプ大統領の外交政策については「感情的で一貫性がない」と一喝し、「個人的関心や誤情報、傲慢に基づいて政策を進め、他国に圧力をかけた」と批判。特にブラジルを含むラ米諸国との関係に長期的な不信を生んだとして、「トランプ政権の外交政策は国際社会における米国の立場を弱め、影響力に疑問符を投げかけた」と述べた。
同氏は「トランプ氏はブラジル政治について理解していない」と指摘、南米政治に対する知識も限られていると述べた。ブラジル司法制度についても「知識がないだろう」とし、ボルソナロ氏が「不当に扱われている」と信じていることを指摘。「おそらく彼はブラジルで『正義を果たしている』と考えているのだろう」とも語った。
レヴィツキー氏は、ボルソナロ前大統領の圧力に直面しながらも、ブラジルの民主主義は強固に機能していると評価しつつ、トランプ政権の影響を避けることの難しさを指摘。現状の政治的分断や司法・メディアへの攻撃が、民主主義の根幹を揺るがすリスクをはらんでいると警告し、その維持には市民社会の覚醒と制度強化が不可欠であると強調した。
次期リーダーには国内の分裂を乗り越え、民主主義を再構築する責任が課せられ、ブラジルはその過程で国際的影響力を持ちながらも独立性を保ち、外交を進める必要があるとし、「どんな外的圧力にも屈することなく、民主的価値を守り抜くことが、ブラジルの未来を確かなものにするための鍵となる」と締めくくった。