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米国がブラジル内政干渉する背景=軍事クーデターから関税圧力まで

2025年8月8日

万華鏡2
かつてブラジルに向け出港した空母フォレスタル(CVA―59)(Foto: National Museum of the U.S. Navy, via Wikimedia Commons)

 トランプ米大統領は、司法によるボルソナロ前大統領への捜査を「魔女狩り」と内政干渉し、その報復としてブラジル産品に対する輸入関税を50%に引き上げた。米国がブラジル内政に介入を試みたのは、これが初めてではない。1964年のブラジル軍事クーデター直前には、米国は空母を含む艦隊派遣を計画するなど、軍事的圧力を背景に政権転覆を支援しようとしていた。

 冷戦下の反共主義に基づくこの介入計画は、最終的に現地軍の独自判断により中止されたが、米国のブラジルにおける戦略的関与の深さを浮き彫りにした。現在の経済的圧力との類似性も指摘され、ブラジルを巡る米国の影響力行使の歴史的継続性が改めて注目されていると6日付BBCブラジル(1)が報じた。

 1964年3月31日、軍事クーデター直前でブラジルの国内情勢が極度に緊迫していた時、米国は「ブラザー・サム作戦」という軍事的介入計画を準備していた。米海軍の空母フォレスタルを含む艦隊をブラジルに派遣し、反共主義的な軍部勢力を支援してジョアン・グラール政権の転覆を図るものだ。

 作戦計画は米国の最高軍事指導部、在ブラジル米国大使館、クーデターを企てるブラジル軍人の間で詳細に協議され、同年4月1日に米ヴァージニア州の港を出港、10〜14日にサンパウロ州サントス港付近に到着する予定だった。だが、クーデター直後に初代軍事政権のウンベルト・カステロ・ブランコ大統領が米国に「後方支援不要」と通告したため、艦隊はブラジルに到着しなかった。

 歴史家カルロス・フィコ氏の著書『ビッグ・ブラザー―ブラザー・サム作戦から鉛の時代まで:米政府とブラジル軍事独裁政権』によれば、この作戦には空母、ヘリコプター揚陸艦、ミサイル搭載駆逐艦、数百トンの武器や催涙ガス、補給用タンカー船団など大規模な軍事支援が含まれていたが、現地軍の判断により動員は停止された。

 この介入計画は冷戦下の反共政策の一環であり、米国はジョアン・グラール政権がソ連主導の共産圏に接近することを恐れ、左派政権の成立阻止に積極的に関与した。計画の起点はケネディ政権期に遡り、1963年12月11日にリンカーン・ゴードン駐ブラジル米国大使が国家安全保障問題担当特別補佐官マクジョージ・バンディ宛に詳細な軍事支援計画を提案している。

 ゴードン大使は自身を冷戦の「戦士」と自負し、ブラジルの左派政権を「ペロン主義的独裁」とみなし、共産主義浸透防止を使命と考えていた。彼の監督下、米国は秘密裏にクーデター派と連絡を取り、武器や燃料の密輸計画も立てられた。武器は米国製と分からないよう別ルートで密輸され、サンパウロ州沿岸のイグアペやカナネイア近郊に潜水艦で搬入される予定だった。

 この軍事的介入が実現しなかったのは、クーデター勢力が自力で政権を掌握し、米軍支援を不要と判断したためだ。歴史家たちはこの事例を、米国がブラジルの政治情勢に軍事的圧力も辞さず深く関与していた象徴として捉えている。

 現代の米国による経済的圧力や関税措置は、過去の軍事介入とは手法が異なるものの、ブラジルに対する戦略的な影響力行使の連続性として理解されている。政治学者や歴史学者は、この動きを単なる冷戦期の反共主義の枠組みにとどめるのではなく、地域における政治的支配や国際的な影響力確保のための戦略的行為と評価している。

 米国は軍事的な直接介入から、より外交的かつ経済的な圧力へと介入の形態を変化させてきた。この変化には、かつての秘密作戦や軍事支援とは異なり、国際社会に対して透明性を保ちながら、複雑化する世界情勢に適応する狙いがあるとされる。

 一方で介入の背景には、ブラジル国内における政治的分断や、一部の政治勢力が米国と密接に連携し、国家主権を犠牲にしてでも自身の政治的利益を追求しようとしている現状もある。近年ではボルソナロ派政治家が米国側と強固な関係を築いているとの分析がある。

 1964年の軍事介入未遂と現在の経済制裁は時代や手段に違いがあるものの、米国によるブラジルへの戦略的関与が時代を超えて持続していることを改めて浮き彫りにしている。


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