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ぶらじる歌壇=43=小濃芳子撰

2025年8月20日

サンパウロ 梅崎嘉明

誕生をともに祝いし滝友梨香広川和子つぎつぎと去る

吾よりも若き知友の次々と逝くは痛まし双手を合わす

吾の逝く日も近かりと詠みし日より幾年経しやいまに生きつぐ

老いぼれて漢字の多く忘れたり書きし手紙は平仮名多し

耳遠き吾に電話は難けれどパソコンはよし交信自在

サンパウロ 橋本孝子

日本の友迎えて皆で集まれり日伯両語が声高に飛ぶ

待合のパイネルずっと見ているがわれの番号なかなか出ずに

サンパウロ 山岡秋男

塔といふ短歌の会を導きし滝先生は帰らぬ人に

わが短歌「うた」を数年間も導きし滝先生の冥福を祈る

短歌詠む生涯読く幸せを我に与えし滝先生は

鎮魂の祈りを込めて短歌「うた」を詠む夕暮れ迫るミサも終わりて

聖市の敷石歩道段差あり右に左に足さばきゆき

物乞いに施しをする邦人少なき故か吾には乞わず

ユーツーブの解説文を聞きながらい寝振りするも安らぎのうち

伯人の日本舞踊の披露宴足の捌きは靴はくごとし

カンベ 湯山 洋

父の日や独り暮しの静けさを遠慮もなく破る孫達

父の日を祝ってくれる乾杯の杯の滴に濡れる眦

ビールよりケントンの方に手が伸びる南風吹く父の日の夜

父の日に東麒麟の熱燗を旨そうに飲みし酒好きの父

父の日の宴のあとの南風独り男の寝床に入り来る

孫息子早く親父になって呉れ曽孫が見たい時間が短い

グアルーリョス 長井エミ子

あから引く東の空の金星も輝き閉じて一日はじまる

太陽の笑顔はじける今朝の空若鮎のごとありし日もあり

幾万のタオルシーツも洗いたいそんな色した今日の大空

知らぬ間に言葉の針で傷つけしあまたの友も今はなつかし

戦争はゲームなりしか惑星の父の命日八月とする

サンパウロ 比嘉茂子

世を照らし我ら育み陽が沈むアリガタキかな宇宙のめぐみ

何かやとうるさき事の多かりし世に吹きすさぶ大国のエゴ

学びてはふざけ遊べる子等まぶし我傘寿の時を生きおり

愛してる花に求愛してる君俺にくれよそのひと言を

サンジョゼ・ドス・カンポス 藤島一雄

青空を切り裂くような飛行雲戦時の空がふとよみがえる

大戦は小二で始まり小六まで落ちつきのなき勉学の日々

岸壁で出征兵士を送りたるあの日よりはや八十余年

食糧も物資も不足の戦況下よくぞ耐えたり日本の民は

軍令で運び去られし尊徳の像いずこにていかに果てしや

戦乱は竜頭蛇尾で終結す犠牲となりし人ら哀しき

終戦の年に生まれた人達も八十才か歳月速し

激動の昭和を語り継ぐ人も年ごと減りゆくけだし当然

軍国の少年気取りしわれも老い異国の果てで子にすがり生く

サンパウロ 安中 攻

訪ねれば施設の人の気配りかチューリップ一鉢友住みし部屋

藤棚の下の長椅子そのままに花の季節を待ちいるごとし

移転した隣の人の姓忘れ只犬の名は覚えておりぬ

混戦となりし伯国女子サッカー南米一となって輝く

夏の日はさわやかだった風なのに寒い季節となって身に染む

サンパウロ 木村 衛

訪日し友の消息尋ねれば皆々逝きしと無常の思い

ふるさとの天神山のつつじ咲けば村は総出で酒組み交はし

敗戦忌いまだ忘れず悼むなり広島長崎わだつみの声

人生観くるりと変りし終戦日十五の年齢の傷跡深し

空雲みどりの木々は語らずもコンクリートの街風そよぎゆき

◆ 名歌から学ぶ短歌の真髄 ◆

 短歌史に残る有名歌人の歌から心髄を学ぶコーナーです。良い歌を沢山読み触れる事でよりよい作歌に繋がるはず。

男らは異国の核をかくしもち見下ろす神をないがしろにする 山田 あき

 毎日のテレビニュースで核の問題が取り上げられています。戦後80年の記念番組で、世界唯一の被爆国である日本の苦しみと現状が映し出されています。二度と見たくない映像は、被爆者の戦後の生なましい営みです。

 75年間も草木も生えぬ原子爆弾の恐ろしさ、又、その破壊力のすざましさに、目も背きたくなる思いです。

 世界の権力者たちは、自国の拡張を望み、核の利用を武器にと考えており、他国に脅しを掛けております。

 しかし、物問題を解決する方法は難しく、

世の賢者が集まっても良い解決策は出てきません。

 そこで神を使うことを考えております。神なくばこの世は成り立たないと思う人も多く、主に、科学者の人びとなどもふくまれます。さて、どの様になるのでしょう。

 私達の生きている時代には、見ることはなさそうです。

 このことを歌に取り上げた女性に驚き、尊敬します。核の利用をもっと平和的に使いたいものと思っています。

《備考》 山田 あき

明治33年、新潟県うまれ

県立高田高女卒業

昭和6年、坪野哲久と結婚

昭和53年、坪野哲久と共に、季刊短歌同人誌 氷河 創刊

平成8年 没

読者文芸

◆ブラジリア俳句会(8月)

花マンガつくずく長く生きたとも 山根敦枝

霞む山過ぎれば我が家移民村 渡辺隆夫

蜂の巣を焼く火野に飛び大火事に 長谷部蜻蛉子

和平とは名ばかりなりしか春寒し 田中勝子

ほかの子と離れて一人ふらここに 荒木皐月

◆モジダスクルゼス俳句会(8月)

独特の香りを放つ韮旨し 大石喜久江

軒端たの黄たんぽぽの花明かり 尾場瀬美鈴

八十年経て語られる原爆忌 田辺鳴海

空に地に生気漲る四方の春 松本瑠美子

カラオケも幸の一つや桜花 檀正子

食べ切れず大根の花咲きにけり 秋吉功

花韮に日和続きて茎固し 村上士郎


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