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【4日の市況・短報】Ibovespa前日比0.81%高の14万0993.25ポイント/Banco do Brasil、米制裁に備え緊張感/アルゼンチン、3日連続で為替介入/分析コラム:日本の投資家にとってのブラジル市場の位置づけ

2025年9月5日

米利下げ観測でブラジル株反発

Ibovespa上昇、ドルは小幅安―週末の米雇用統計に注目

 ブラジルの株式市場は4日、米国の利下げ観測を背景に大幅に上昇した。サンパウロ証券取引所の代表的株価指数Ibovespaは前日比0.81%高の14万0993.25で取引を終え、終値ベースの過去最高(8月29日、14万1422.26)を一時上回った。為替市場では、米ドルが序盤上昇したものの引けにかけて反落し、対レアルで0.09%安の1ドル=5.447レアルと2日続落した。

 利下げ期待を強めたのは、米国から相次いで発表された労働市場の軟化を示す指標である。失業保険申請件数が増加し、民間雇用の伸びを示すADPレポートも7月の半分程度の水準にとどまった。9月16~17日に予定される米連邦準備理事会(FRB)の金融政策会合を前に、市場では0.25%の利下げ実施を97%以上が織り込み、米欧の株価指数も軒並み上昇した。

 ただ、米国のトランプ大統領によるFRBへの圧力や理事会構成の変化は、市場に不透明感を残している。週末に発表される雇用統計(ペイロール)の内容次第で、市場心理は一変する可能性もある。

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ブラジル商業収支、関税影響は限定的

 8月に米国が一方的に発動した50%関税の影響は、統計上は軽微にとどまった。対米輸出の一部で減少は見られたが、全体の貿易黒字は前年同月比35.8%増加した。市場は「ブラジル経済の対米依存は低下している」との評価を強めている。

 他方で、政治面では依然として波紋が広がっている。野党は2026年大統領選に向け、被選挙権を失ったボルソナロ前大統領の資格回復を模索し、米国滞在中の長男エドゥアルド氏は現地で制裁強化を働きかけるなど、米政権との緊張は続く。


金融株や資源株に買い

 市場ではほぼ全面高の展開となり、主要銀行株が軒並み上昇した。ブラデスコ(BBDC4)が2%高、国営銀行のバンコ・ド・ブラジル(BBAS3)も0.69%高となった。ただし、同行は米国が適用した「マグニツキー法」に関連するリスクへの対応に追われており、不安定な値動きが続いた。

 資源株では、鉄鉱石市況の軟調にもかかわらずヴァーレ(VALE3)が0.20%高、ペトロブラス(PETR4)は横ばい圏内で底堅さを示した。

 一方、個別銘柄ではコサン(CSAN3)が5.63%高と急伸。資産売却による財務改善の意向が投資家に好感された。ペッツ(PETZ3)はコバシとの合併審査進展を受けて0.26%上昇。食品大手マルフリグ(MRFG3)はBRFとの統合を巡る競争当局の特別審議を控え2.13%高となった。

 逆に、経営陣の交代が続くアッザス2154(AZZA3)は1.10%下落。イボベスパ指数外では、BRB(BSLI3)が3.25%安と急落した。中央銀行がマスター銀行買収計画を却下したことが嫌気された。


Banco do Brasil、米制裁に備え緊張感

 米国のマグニツキー法に基づき、ブラジル連邦最高裁のモラエス判事が資産凍結などの制裁対象となった。同行に口座を持つ同判事への影響から、バンコ・ド・ブラジルは追加制裁リスクを警戒。米大手法律事務所に助言を求め、取引ルートの分散も検討している。

 現在、同行は米国で5万人規模の顧客を抱え、ニューヨークやマイアミに拠点を持つ。取引を他国拠点に振り分ける可能性もあるが、ドル建て取引は最終的にFRBの管轄下に置かれる。同行は「国内外の法令を順守する」と声明を発表した。

 仮に制裁が拡大すれば、同行だけでなくブラジル金融システム全体に波及するリスクがある。STFによるボルソナロ前大統領の裁判と、米トランプ政権の圧力が交錯し、銀行界は難しい立場に立たされている。


アルゼンチン、3日連続で為替介入

 隣国アルゼンチンでは、財務省がペソ急落を防ぐため連日でドル売却に動いた。3日間で計3億1000万ドルを放出し、8月12日以降の累計は3億5200万ドルに達した。保有外貨準備は約16億ドルとされ、当面の「火力」は維持されている。

 介入の背景には、7日のブエノスアイレス州選挙を控えた政権の警戒感がある。市場では、汚職疑惑が大統領の妹カリナ・ミレイ氏に波及したことも混乱要因となった。

 ミレイ政権は発足以来、急激な金融引き締めと財政調整を進めてきたが、通貨防衛では利上げだけでは不十分と判断し、為替介入に踏み切った。インフレ率は足元で改善傾向を示すが、ドル高が再燃すれば再び物価圧力が強まる懸念がある。


ブラジル政治:恩赦法案を巡る攻防

 国内政治では、1月8日の暴動事件関係者への恩赦を巡り与野党の攻防が激化している。上院のアルコルンブレ議長が刑罰軽減を中心とした「穏健案」を模索する一方、下院与党PLのカヴァルカンテ院内総務は「ボルソナロ前大統領を含む全面的恩赦」を主張。議会内で対立が先鋭化している。

 7日の独立記念日には、ボルソナロ支持者による全国規模の集会が予定され、サンパウロのアベニーダ・パウリスタでは前大統領夫人ミシェル氏やタルシジオ州知事らが参加を表明。一方で、パラナ州のラチーニョ知事は欠席を決めるなど、政治家の対応も割れている。


EUが鶏肉輸入を再開

 国際貿易では、欧州連合(EU)がブラジル産鶏肉の輸入を再開することを決定した。商業用農場での鳥インフルエンザ発生が28日間確認されなかったためで、農務省は「主要輸出市場の回復は畜産業に追い風」と説明した。


インフラ・企業動向

 同日、会計検査院(TCU)はサントス~グアルジャ間の海底トンネル建設を巡る入札差し止め請求を退けた。BNDESによる融資制限が議論となっていたが、裁判所は「市場リスクの範疇」と判断し、5日の入札実施が確定した。

 鉱業大手ヴァーレはミナスジェライス州で新鉱山「カパネマ鉱山」を正式に稼働させた。67億レアルを投じ、乾式処理を採用して尾鉱ダムを不要にする技術を導入。マリアナ、ブルマジーニョ両事故の教訓を踏まえ、安全性と環境対応を前面に出した「新たな段階」に入った。

 米国では、スポーツウェア大手ルルレモンが販売低迷を受けて業績予想を下方修正。株価は13%以上急落した。急成長を牽引したヨガ関連市場の減速が背景にあり、著名アスリートとの提携強化で巻き返しを狙う。


先行きは米雇用統計次第

 ブラジル市場の足元の上昇は、あくまで米国の利下げ期待という「外部要因」による部分が大きい。専門家は「雇用統計の弱さが確認されれば、新興国への資金流入が強まり、ブラジル市場にも追い風となる」と分析する。

 一方で、米政治とブラジル司法の対立、アルゼンチンの通貨不安、国内の恩赦法案を巡る不透明さなど、リスク要因はなお多い。5日の米雇用統計は、市場の方向性を占う決定的な材料となる。

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分析コラム:日本の投資家にとってのブラジル市場の位置づけ

 米国の利下げ観測を受けたブラジル株の上昇は、短期的には新興国資産への投資妙味を高める材料となる。高金利通貨レアルと高配当株を組み合わせた投資戦略は、為替の安定局面では日本の投資家にとっても一定の魅力を持ち得る。

為替と金利差の妙味

 米金融緩和が進めば、円とレアルの金利差が再び注目を集める可能性がある。低金利環境にある日本からすれば、レアル建て資産は高利回り投資先として関心を呼びやすい。実際、過去の利下げ局面でも、ブラジル国債や株式に日本からの資金流入が確認されてきた。

 ただし、急激な米金融環境の反転や為替変動はリスク要因である。特に円高局面ではリターンが一気に削がれるため、為替ヘッジや分散投資の重要性が高まる。

政治リスクの注視

 他方、ブラジル特有の政治リスクは看過できない。司法と大統領経験者を巡る対立や、米国との制裁摩擦は市場を急変させかねない。現地銀行大手のブラジル銀行が米制裁対応を模索している事実は、制度面での不確実性を示す一例だ。日本の投資家にとっては、投資判断に際し「法制度の安定性」を必ず点検する必要がある。

資源株への過度な依存回避

 ブラジル市場ではヴァーレやペトロブラスといった資源関連株の比重が大きい。資源価格の変動に左右されやすいため、日本からの投資では消費関連やインフラ関連など、資源依存度の低い企業群に注目することでリスク分散が図れる。農業や再生可能エネルギーといった分野は、中長期的な成長ストーリーを描きやすい。

長期視点での意義

 足元の相場は米国利下げ観測に端を発する一過性の要素が強い。しかし、日本にとってブラジル市場は、人口規模や豊富な資源、拡大する中間層を背景とする「長期的投資先」としての意義を持ち続けている。

 短期的な資金移動に振り回されることなく、為替ヘッジの徹底や投資対象の分散を通じてリスクを抑えれば、安定した収益源を確保する可能性は十分にある。


コラム結び

 米国利下げ観測が新興国市場を押し上げる中、日本の投資家に求められるのは「一喜一憂しない姿勢」である。外部環境の変化に即応しつつ、ブラジルが中長期で取り組む産業多角化や制度安定化の進展を冷静に見極める――。それこそが、持続的リターンを享受するための最も確かな道筋といえる。

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分析コラム:日本の投資家に向けた二つの視点

個人投資家向け ― 為替リスクと高配当のバランス

 ブラジル株や国債は高い金利と配当利回りを誇り、個人投資家にとって魅力的に映る局面が多い。米国が利下げに転じれば、円とレアルの金利差が際立ち、レアル建て資産に関心が集まる可能性がある。

 ただし、最大の注意点は為替リスクだ。円高に振れれば利回りは一気に失われる。外貨建て投資信託やブラジル株ETFなどを活用する際は、為替ヘッジの有無を確認し、投資金額を分散することが肝要となる。

 加えて、ブラジル市場は資源関連株の影響が大きいため、短期の値動きに翻弄されやすい。安定的な成長を志向するなら、農業や再生可能エネルギー、インフラなど生活基盤に結びつく分野に投資対象を広げるのも一案だ。


機関投資家向け ― 政治リスクと資産配分戦略

 年金基金や金融機関などの機関投資家にとって、ブラジル市場は依然として「高リスク・高リターン」の投資先である。米国利下げによる資金流入の可能性は大きいが、同時に政治・司法リスクや対米関係の不安定さを慎重に織り込む必要がある。

 現地の制度的安定性は依然として脆弱であり、ブラジル銀行が米制裁対応を模索する状況は象徴的だ。長期ポートフォリオに組み入れる場合は、国債や外貨建て社債、インフラ関連株を組み合わせ、資産配分全体でリスクを希釈することが求められる。

 一方、ブラジルは人口規模の大きさや豊富な資源、農産品輸出力といった強みを持つ。気候変動対応や再生可能エネルギーなど、世界的な潮流と合致するテーマも多い。こうした分野へのエクスポージャーは、ESG投資の観点からも注目度が高まるだろう。


コラム結び

 個人投資家には「為替リスクを踏まえた慎重な小口分散投資」を、機関投資家には「政治リスクを織り込んだ戦略的資産配分」を。それぞれの立場で見極めるべきポイントは異なるが、共通するのは短期的な相場の熱気に惑わされず、ブラジル経済の中長期的な変化を冷静に追う姿勢である。


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