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第七十七回全伯短歌大会

2025年10月4日

得点表
得点表

第七十七回全伯短歌大会がブラジル日報、椰子樹社の共催で今年も誌(紙)上大会として行なわれた。作品募集が今年4月に椰子樹三月号(四〇〇号)およびブラジル日報紙で行われ、日本、米国からの参加者を含む56人から112首が寄せられた。互選、題詠、集計、批評が滞りなく実施され、その結果を椰子樹九月号(四〇六号)および本記事で発表する。

◆大会概要

互選(清谷益次短歌賞)

外山安津子

木村衛

金藤泰子

総合得点

山元治彦

野口民恵

題詠(道・みち・ドウ)

富岡絹子

応募者数:56人(女性35人、男性21人)

応募作品:112首

応募方法:郵便21、メール他=35

応募者年齢:40代1人、50~60代0人、70代6人、80代40人、90代7人、100代2人、平均年齢84・7歳

選歌参加:53人

題詠参加:43人

来年度大会開催について:希望する43人、中止する2人、無回答11人

大会継続に必要な参加者数:50人以上12人、40人6人、35人3人、30人7人、20人3人、10人2人、無回答23人

◆互選結果

15点

歳だとて気持老けこむ事なかれ命かがやけ終(つい)の日までも 外山安津子

変りゆく世の動きには馴染めずも心豊かにおのが道ゆく 木村衛

あと幾とせ歩けるだろうこの道を夫と二人で小春日の中 金藤泰子

14点

大根の花しらじらと咲きそめり母亡きのちのいくたびの春 野口民恵

幾万の移住者の夢呑み込みてアマゾン大河滔滔と流る 金谷治美

13点

人の世の浅ましき事ありしとも戦禍なき国安らぎて臥す 三宮行功

たまさかに会えば名前がうかびこず笑顔でつくろうとまどいにがし 山元治彦

12点

ふるさとの藁(わら)の匂いもなつかしき訪日がえりの納豆届く 安中 攻

11点

幸せな我が生涯を振り返りただ神様に感謝あるのみ 三宅珠美

帰化もせず日本語だけに徹し来て余生楽しむ日本文芸 須賀得司

登り来てキリスト像の足元で双手(そうしゅ)広ぐる父は小さき 坂上美代栄

10点

いつの世もどこかで戦禍の絶ゆるなくつくづくこの世の人間悲し 杉田征子

ネックレスはずしてくれと背をむける白きうなじは僕だけのもの 山元治彦

めっきりと数減るわれらうた詠みの一人また逝く秋深まりて 小池みさ子

思い出は苦労忘れて語り合う楽しき事の又多かりき 松本正雄

老いて尚遠き青春語る友目は生き生きと幼なにかえりて 須賀得司

9点

短歌会移民われらの灯(ともしび)が燃えつきてゆく令和の御世に 若藤ユカ

餌(えさ)求めつがいの小鳥飛来する話し相手の欲しい夕刻 安中攻

人並に歳(とし)を重ねて老いて来たこれから勝負人生行路 松本正雄

月光に砂場の木馬は静まりて空にかけむか前脚あげて 野口民恵

父そして母を見送ることもせず異国に齢(よわい)かさねてきたり 多田邦治

木のベンチは温かきかな膝に掌(て)を広げて今朝の陽光を乗す 小野寺郁子

若き日のアルバム繰れば懐かしきあの友この君如何におわすや 梅崎嘉明

8点

数々の苦労重ねし人達の今の笑顔は春の満月 湯山洋

小春日や歩き始めし初曾孫親子四代笑い弾ける 湯山洋

7点

祖母や母私と娘それぞれの短歌に時代の言葉を感じる 内谷美保

赤花に黄蝶舞い来て戯れる窓越しに見る今日の幸せ 壇正子

時間だよ仕事早目に切り上げて夫と揃ってテレビ体操 鈴木静枝

おのおのが日々の暮らしをつぶやきて癒やす儚き短き歌よ伊藤喜代子

小学で大和のこころ育まれ少女移民は「君が代」に泣く 若藤ユカ

6点

四十年店を支えし店員の退職の日は涙止め得ず 西森ゆりえ

日没にオレンジそまる空ながめ輝きともるあしたの夢や 佐藤夏子

朝一番目ざめと共に待ちわびるブラジル日報世界のニュース 大志田良子

酔いどれて眠る男のその背なに酔いどれしがに犬もたれ寝る 伊藤喜代子

独り身を歎くならねどひとり言つい多くなる無意識なれど 小池みさ子

旅に出て夫の手とれば縋るごと息子(こ)と手つなげば守りくるるごと 金谷治美

長生きで落ち込む日あり我が人生されどひたすら前に進まむ 足立富士子

5点

父母(ちちはは)に健康もらい八十路中生涯現役目標として 廣瀬美知子

冬めくや赤い襟巻きおしゃれして散歩楽しむ足どり軽く 石井かず枝

見知らぬ人に左の靴紐結ばれて帰宅後もしばしさわやかにいる 寺田雪恵

固まりて土手に咲いてる新渡戸(にとべ)菊久しく雨の降らぬ斜面に 壇正子

寒き夜柚子湯につかり思い出す五右衛門風呂と故郷(ふるさと)の祖父 秋吉功

窓からの月はさやかに差し込みて歌詠む心洗いてくれぬ 小濃芳子

鉢植の一つに偲ぶ思い出は形見となりて甦りの花 真藤浩子

妻は逝き娘は嫁ぎ独り身の己なぐさめ短歌に励む梅崎嘉明

「死んだら親孝行出来んもんね」と足の爪切りてくれたり笑いながらに 寺田雪恵

終戦日屈辱感と開放感表裏一体身に染みたる日 藤島一雄

4点

母の日は家族そろって集まりてむかしばなしに花をさかせる 比嘉洋子

移民祭大和心は四世も鳥居と桜たいこをたたく 毛利ペドロ

山道も小石除けば平らかに頂上目指す人生の道 石井かず枝

朝の陽をつかみて放つ太極拳園の男女は雲を踏むがに 坂上美代栄

匂ひ立つ番茉莉花(ばんまつりか)のむらさきの花は白へと移ろひながら 岡田迪子

過疎化して猪鹿も出て来ると国際電話に朋友(とも)は笑いぬ 早川量通

歌を詠み俳句も詠みし兄なれど今はスマホに夢中になると 西森ゆりえ

今日も会う表通りの浮浪者は顔見知りのようでそうでもない 水澤正年

古日記古家計簿の片付けに過ぎし生活(たつき)に思い感謝す 不破史子

旋律の流るる歌と古(いにしえ)の和歌とふ歌に魅せらるわれは 足立富士子

鰯雲空を満たして静けさや教皇の別れ世界集まり 日高パウロ

3点

我が胸は思い出の宝庫九十八年日本満州ブラジルと住み 三宮行功

突然に趣味の一つで出来た短歌(うた)短冊に書き生き甲斐もらう 外山安津子

朝静か花瓶にさした花一輪コーヒーの香も散歩に誘う 平川佳子

抽斗(ひきだし)に眠る形見の矢絣に思い出づるは花吹雪かな 富岡絹子

朝イチの料理番組旨そうと忘れぬうちにキッチンに立つ 秋吉功

ほのぼのと沖縄桜咲きそめぬ今年かの地の友亡くしたり 多田邦治

廃墟より悲願の復興成し遂げて日本は経済列強国に 藤島一雄

朝早にケロケロ歩む散歩道いつも夫婦でケロケロ鳴いて 鈴木静枝

姫の着物日伯の色は調和して国会歩き友情つなぐ 日高パウロ

バス客は法事帰りの我らのみ皆無料客えんりょしつつも 金藤泰子

思い出す百姓なりし少女期は近所の牛や馬かわいがり 伊藤智恵

今日もまた米寿も近く明日思い元気で歩む秋の一日鈴木貞男

カラカラと銀杏の落葉一面に秋の終わりの夢つくりかな 鈴木貞男

沖縄で夜中に鳴った非情ベル北朝鮮のミサイル飛べり 足立有基

移住者はのんびり生きることできず今日もせっせとエッセイ綴る 宮崎高子

2点

又もやと同胞次々去りて行くただ安らかにと祈るばかり 佐藤芳子

大き望みはもはや持てねど小さめの叶え易げな願いを持ち生く 小野寺郁子

三年に一度の世界バラ会議その福山市を我が隠居地とす 森本昌義

夫の忌を修し唱える御詠歌の声は澄みゆき天より聞こゆ 杉田征子

一日中TVの前の我が余生あと幾ばくの命かぞえつ 三宅珠美

どんどんと過ぎゆく日時(ひじ)につい忘れ忘れてならぬ夫(つま)の命日 不破史子

諦めと希望の狭間は穏やかにも少し夢を見させておくれ 井本格

明日知れず思う心に沁み入るは無心に照らす窓の宵月 木村衛

遠来の歌はよろこび身にしみてノート開きし深き秋の夜 小濃芳子

昨日冬今日は真夏のこの国に春は無いのかサン・ペードロ 影山孝

別府では目利きの銀次の刺身どん懐かしの店五年ぶりなり 足立有基

故郷は遠くにありてわがこころに住みついており忘れがたきかな 宮崎高子

世界中多少のいざこざありしとも孫らの時代も平和であれかし 内谷美保

大雨台風荒れ狂うしかれどマンガ大樹は誇らしげに枝を張る 佐藤芳子

待ち望む日本生まれの新横綱体躯たくまし二十四歳 森川玲子

1点

年毎に高齢者増ゆ世の中の幾人かは認知症かも 前田昌弘

古里の空一面に鰯雲出迎え嬉し過去の人達 平川佳子

故郷のゆるい坂道タンポポの母のだい好き明るい丘は 井本格

ヘビの道造られてある住居跡インカの人の暮らし偲ばる 富岡絹子

コロナ禍のマスク今では粉塵にメトロ工事の歩道を急ぐ 真藤浩子

靖国の神社のお神酒(みき)酌み交わし次世代と未来語る喜び 早川量通

ふるさとよ年(ねん)去りけりやきりの山掠(かす)れてくるよいつ帰られる 佐藤夏子

夕暮れて仕事が終わったビルの窓ため息まじりの明かりがともる 水澤正年

百歳媼姪とその娘を亡くしても気丈にミサに出席してる 橋本孝子

友人は大学入試われ茶の湯七十過ぎてボケ防止策橋本孝子

問はれたるこの世の別れの食事にはふぐの刺身に吟醸酒なり 森川玲子

(以下略)

◆題詠「道・みち・ドウ」

ブラジル日報歌壇選者 小濃芳子・選

◎一位

穏やかな卒寿の母の遺影にも辿りし道の険しさを秘め 富岡絹子

(評)人の道の苦労をよく分かった作者です。結句が生きております。

◎二位

なぜ生きているのと問われ死ぬまでの通り道だとほほえみ答える 足立有基

(評)すんなりと人の歩いてゆく道を究めた人の名句です。思いきれない未練が描かれているようにも思えます。

◎三位

ほらそこが風のゆく路ゆうらりとイペーはゆれて花散り溜まる 野口民恵

(評)「風のみち」とはすばらしい。誰にも見えない道を作者は感じております。

◎四位

ファゼンダを越えて漸く町に入る小学校への八キロの道 岡田 迪子

(評)移住後の道なき道が確かに詠まれており、不便であった営みがよく分かります。

◎五位

百歳を二つ超えたり今になお短歌の道をきわめ詠みつぐ

梅崎 嘉明

(評)誰にも分かる梅崎さんの歌です。人生、百歳の時代ですが、現実に生きて行くのは大変なことだと思います。更に、歌を詠む意欲には頭が下がります。心身ともにお元気なことを願って居ります。

◎同

入道雲長き渡伯の船旅に不安払われ希望峰発つ 三宮行功

(評)確かに「道」の言葉があります。移住者の心の揺れゆきを詠んだ素晴らしい歌です。

◎佳作

人の世は心豊かに日々歩むこれぞわが道前途有望 石井かず枝

マフラーを衿深く巻き陽あたりの良き道選びメトロ駅まで 金藤泰子

似ているかフランク・シナトラ「マイウエイ」我が生きざまと米寿の集い 森本昌義

故郷(ふるさと)のみかん畑にびわ畑宅地となりて道のつきたる 坂上美代栄

道野辺に凛と咲きたる寒椿春の兆しを告げるがごとく 藤島 一雄

道沿いの緑の陰にカロッサを止めて老人はスマホ取り出す 多田邦治

◎選外佳作(編集部・選)

ウオーキングこの坂道を来年も歩けるだろか息を切らして 秋吉功

老夫婦日焼けし腕をさらけ出し柿を携え村道歩く 壇正子

移り来てバス停までの山道を八キロ歩く明けの明星 森川玲子

今八十路(やそじ)目差す人生まだ先と登る坂道手を取り合って 松本正雄

訪日の旅は楽しく古里の桜咲く道二人で歩む 鈴木貞男

故郷(ふるさと)の小学一年生にかよった道大雪のときは兄がおんぶす 大志田良子

赤々と太陽しずむ秋の日の日暮れ早しと帰る道かな 鈴木静枝

夜明けには神と語りて歩く道小鳥と野花喜びくれる 宮崎高子

道の辺に露草花は凛として行き交う人等の笑顔爽やか 真藤浩子

移住してこの道選び悔いはなし短歌に俳句菜園を見て 廣瀬美知子

◎総評

小濃芳子

沢山の応募作品を頂き、有難うございました。私達がなにげなく暮らして居ります営みに、数え切れない「道」があります。短歌大会にはそれらの道の姿が詠みこまれており、有意義な題詠と思いました。雲あり、花あり、写真あり、ひとびとの息吹きのようなものを感じ、嬉しく思いました。選に漏れた歌にも多くの良い歌がありました。これからもどんどん短歌を作ってください、記録に残ります。

1 八十路まで背すじ伸ばせぬ我が人生されどひたすらこの道行きたし 足立富士子

2 北海道北の大地がふるさとの我一生はブラジルなれり 安中攻

3 道草の多き人生ふりむけば帰るに遠し行く先みえず 伊藤喜代子

5 いつしかに短歌の道に迷い込み我のひと世は退屈知らず 杉田征子

6 たどり来し道なき道の七十年(ななそとせ)日暮れて願う又来るあした 若藤ユカ

11 朝日あび今朝も元気にジョギング歩道にぎやか老若共に 照屋美代子

12 道にもいろいろあるけれど人生街道まっしぐら我が道を往く 前田昌弘

14 親の代たしかにあったいなか道遠(とお)の昔よ今は蓬(よもぎ)生(う) 平川佳子

16 我が道はどこへ行くのかわからない昨日も今日もガヤガヤガヤと 影山孝

19 柔道の根性われを支えたり黒帯なが年箪笥にねむる 山元治彦

29 農の道時代の流れでうすれ行く変わる世相にとまどいを覚え 佐藤芳子

30 百二歳自在に歌う先達の道行く我はこの先みえず 木村衛

32 道徳の乏しきブラジル情けなし自然の恵みはあふれているのに 内谷美保

33 可憐さに一目惚れししお見合いの明日への道を照らす月影 湯山洋

34 消息は文芸欄のみで知る祖国は同じ北海道の人 西森ゆりえ

37 いつゆくもわからぬ命最後まで精いっぱい生き終えむわが道 小池みさ子

38 百万の叫びを越えて潮の香よ浜風に笑む道はひかりす 井本格

坂道を屈み登ればポケットの鍵が触れ合い切なげに鳴る 小野寺郁子



ぶらじる歌壇=44=小濃芳子撰前の記事 ぶらじる歌壇=44=小濃芳子撰
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