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マイゾウ・メーノス(まあーまあー)の世界ブラジル(37)=サンパウロ 梅津久

2025年10月14日

第30話

メチャ・クチャな労使関係(その3)

ブラジルのメチャ・クチャな労使関係に関してはすでに第7話、第8話で話してありますが、さらに追加して記してみる。

ストライキで「ただ食い」

ストライキの対策も頭の痛い問題である。今では、失業率の増加、経済成長の停滞で以前ほどストライキが発生していないが、1980年から、1990年の始めはマナウスの工業団地内でも、労働者シンジケートが非常に強く、いたる所でストライキが発生した。

一番激しかったのは工業団地へ通じる道路封鎖戦略を実行したゼネストに似たストライキであった。

当時、工業団地に入る道路は二本しかなく、道路封鎖は格好の戦略であった。朝早く、シンジケートの親派が道路に日本の忍者が使うような3本足のクギをばら撒き、通勤バス、自動車のタイヤをパンクさせようとした。

戦略は大成功で、数台のバス、車がパンクで立ち往生し、完全に道路は封鎖されてしまい、全ての工場の操業が完全にストップしてしまった。

前にも後ろにも行けなくなった車が正常に動く様になるのに昼までかかったが、私は前日に情報を聞き、暗い内に出勤したため難を逃れ、工場に着くことができていた。

また、他の戦略として使われたのは、シンジケートの総力を上げて一つの会社にバリケードをはり、ストライキに突入させ、そこの従業員を戦力に加え、次から次へと隣の工場へとストライキの枠を広げて行く方法である。

さらには、一つの部品製造会社に的を絞って操業停止に追い込むストライキ戦略である。これにより部品供給を受けている最終組立工場が操業不能になり、必然的に他の部品工場も操業停止に追い込まれる連鎖反応効果を狙ったストライキである。

この様なストライキは外部の力が大きいため、ストライキを阻止するのは難しい。またストに入った場合、従業員は朝食を取り、工場の至る所に寝そべり、ゲームに興じて、昼食をとり、昼寝をして、夕方バスに乗って帰って行く。こんな光景を見るのは非常に辛いことである。

一方、サボタージンで設備や製品に悪戯をされると大変なことになるので、現場のパトロールを欠かすことはできない。

ストライキになった場合、会社の対応の仕方として効力を発揮するのは、サボタージンによる会社の施設や製品の維持を目的として、ストライキが解決するまで、会社を閉鎖し従業員を入れない方法である。

ストが解決するまで従業員は会社に入ることも、会社で食事することも出来ず、それだけ余分なお金が出費となり、家計が緊迫し、妥結交渉に積極的になって来る。当然、ストライキ期間の給与支払いも交渉の条件となってくる。

とにかく、ブラジルの労働法、関連法規は、従業員を保護することを主眼に作られているので、労使関係には細心の注意を払うこと、現場の情報をいかに早くキャッチするかが必要であり、特にストが発生しないようにすることは最重要である。

頭と時間のロスとなる労働訴訟

さらに、ブラジルでは労働訴訟も企業にとっては大きな頭痛の種となっている。メチャ・クチャな労使関係で述べたように、多くの規制がある中で、不適正な社員をなんとか正当な理由なしで各種の契約解約違反金を払って解雇できたと思っていると、忘れたころ、労働裁判所より元従業員からの訴訟による裁判の呼び出し令状を受け取ることが頻繁にある。

不当解雇、残業・休日出勤未支払い、同一職種同一賃金、職位と実際の職務違い(給与違い)、パワーハラスメント、職業病による再雇用、委託業者責任による共同訴訟とあり、また損害賠償金額も、どうやって算出したのかわからない高額となっている。

よく見ると同じ弁護士の名前が出ている、また証人も同じ人であったりする。弁護士にすれば、何もない所から、訴訟をして勝訴すれば、損害賠償金からお金が転がんで来る。他人の土俵で相撲をさせ、それでお金が入ってくる。これほど楽な商売はないかも。

対応としては、裁判にかけ、二審、上告と続けることで、判決の賠償額がかなり少なくなってくる。またブラジルのことなので判決が出るまで数年かかることがあり、相手はなんとか和解を求めてくることも少なくない。

ブラジルの雇用制度、労働法や規制に関しては、まだまだいろいろあり、年々変わりますので、また別の機会にもっと“なまなましい”お話ができればと考えております。



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