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ぶらじる歌壇=45=小濃芳子撰

2025年10月14日

サンパウロ 梅崎嘉明

南より上昇したる台風は数時間この町を荒らし過ぎ去る

畑中のマンガ樹に風荒れてマンガの幼実あまた地に落つ

若き実の落つるのみならず傾斜地のマンガ樹木のなぎ倒されし

暴風は州全域に及びしとトヨタ工場の屋根も飛ばさる

停電の二日続きて日本の相撲もニュースも見る事ならず

サンパウロ 安中 攻

黄 イッペー友と並んで写真撮り眺めてもはや緑の葉濃し

食事あと籐椅子で揺れる気持ち良さ今日から十月この国は春

空晴れてバスとメトロ出歩けば春とも四季を感じないまま

トンネルをいくつか超えて見る下界山肌かすみ朝の清しさ

グワルーリョス 長井エミ子

酔芙蓉一日三度の衣更え折合いつかぬ事の多くよ

家ぬち中手摺野郎に乗っ取られ翁ヒョリヒョリ生きるベレア・ア

今しばし余力絞りて賄はむやもりのやーさん今日はアベック

文くれし最后の友も今は無き我身辺の静まりて行く

洪水は赤いカンナの咲く町もグオングオンと飲み込みて行く

サンジョゼ・ドス・カンポス 藤島一雄

春たけなわ野辺の草花咲き乱れ鳥もさえずり交わし群舞す

利便性ばかり求める現代の科学の発展日進月歩

大リーグ投打が織りなす二刀流大谷翔平稀有な逸材

在日の次女とネットで通話する画像対面臨場感あり

日報紙発行日数縮小す持続措置なら読者受容す

愉しみはひそやかなるをモットーに生き来てはやに卒寿は過ぎぬ

大戦下学びし友の訃報聞く身じまいの日は避けて通れぬ

サンパウロ 橋本孝子

暑さ来て肌を現す若者の装い軽く刺青あまた

ジャカランダ今年も咲いた駅前に灰色空に紫映えて

◆ 名歌から学ぶ短歌の真髄 ◆

短歌史に残る有名歌人の歌から心髄を学ぶコーナーです。良い歌を沢山読み触れる事でよりよい作歌に繋がるはず。

苦しみて歌つくるわれ楽しみて歌つくるわれいずれぞわれは

宮 柊二

日は昇り、日は沈む毎日の暮らしの中で、歌はどのように生まれるのでしょう。

歌は、心の叫びといわれます。

この世の辛い出来事、悲しい別れなど、耐え難き出来事が人生には多くあります。つまり、それらに耐えるストレスの現れとして、表に歌として現るのです。

歌は理屈ではありません。その時の感情の塊を表現するのです。

しかし、毎日心の叫びを聞いて暮らしているわけではありません。嬉しいことに、巡り合わせると楽しくなり、すんなりと歌が出来上がり、心わくわくと一日が過ぎていきます。

この感激をまとめまとめ、留めることこそ、歌の真髄と思います。このことは苦しくまた纏め上がった時は、達成感とともにうれしくなります。

これらの繰り返しが人生であり、人は苦しみに耐えながら、自分はどちらなのかと思うのです。有名な歌人でさえ思い悩むということを歌に詠むのです。どちらも大切です。

感激を忘れずに、書留めうたに作りましょう。この人生の過ぎゆきを大切に思えばこそ毎日が有意義に思えることに気がつきます。楽しくうたをつくりましょう。

しかし、悲しみの歌、励ましの歌は、心にしみこみます。どちらも大切に暮らして生きましょう。

【備考】 宮 柊二(みや しゅうじ)

大正元年、新潟県魚沼群堀野町生まれ

昭和8年 北原白秋に師

昭和28年 コスモス創刊

戦後短歌のリーダーとして活躍

52年 毎日文化賞、読売文学賞、日本芸術賞など受賞

昭和62年、没


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