CIATE=デカセギから鉱山動力大臣に=日本就労「大きな成長の機会」
ブラジル連邦政府の中枢に、かつて日本で働いた一人の若者がいた――。現在、ルーラ政権で鉱山動力相を務めるアレシャンドレ・シルヴェイラ氏(社会民主党(PSD)、54歳)は、20代のころ岐阜県で「デカセギ」として働いた経験を持つ。国外就労者情報援護センター(CIATE、二宮正人理事長)コラボラドーレス会議が11月30日にブラジル日本文化福祉協会貴賓室で開催された際、同大臣は動画メッセージを送って自らの原点を語り、聴衆の共感を呼んだ。
シルヴェイラ氏が日本に渡ったのは、デカセギ最盛期である90年代半ば、約30年前だ。日系女性と結婚した後、法学部の在籍を一時中断し、家族の生活を支えるために渡航した。岐阜県恵那市にある機械メーカー「リコー」の関連工場で、コピー機の梱包作業に従事した。当時は円高や景気変動の影響もあり、ブラジルから多くの若者が日本へ働きに向かった時期と重なる。
「日本で学んだのは、規律と粘り強さ、そして人を大切にする社会のあり方でした」「視野を広げる大きな成長の機会だった」とシルヴェイラ氏は穏やかな口調で語った。工場勤務の日々は決して楽ではなかったが、働く仲間や地域住民に支えられたと振り返る。
日本滞在中には長男「シャンジン」氏が誕生したことを明かし、「私にとって日本は職場であると同時に、家族の思い出が詰まった特別な場所だ」と声を詰まらせた。
デカセギから経済界、そして政界へ――。ブラジル帰国後、同氏は実業界で経験を積み、やがて政界入り。ミナス・ジェライス州選出の上院議員を経て、2023年には鉱山動力相に就任した。ルーラ大統領とも近く、今年3月の大統領訪日に同行した際には、天皇陛下への拝謁の機会も得た。「日伯130年の友好関係は、これからさらに深まるべきだ」と述べ、再生可能エネルギー分野での協力拡大に意欲を示した。
世界に散らばるブラジル人移民は約400万人とされ、うち日本在住者は20万人超だ。言語や文化の違い、雇用の変化など、在日ブラジル人コミュニティが抱える課題は多い。その支援に取り組む二宮理事長は、「デカセギ経験を持ちながら大臣にまで上り詰めた人物がいることは、大きな励みになる」とシルヴェイラ氏の発言に勇気づけられたと話す。
今回のビデオメッセージで、シルヴェイラ氏は「デカセギとして働くことは、単に収入を得るだけではない。世界に目を向け、人生を切り開くためのかけがえのない機会だ」と若い世代に向けて語りかけた。そして、「日本で働く皆さんを、私は誇りに思う」と強調し結んだ。
30年前、恵那市の工場で黙々とベルトコンベヤーに向かっていた青年は、いまやブラジルのエネルギー政策を担う要職に就く。両国が歩んできた130年の歴史に、もう一つの貴重な物語が刻まれた。








