COP30=気候危機に対応する日本の技術=ジャパン・パビリオン紹介(1)=衛星データ活用編
ブラジル・ベレンで開かれた国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)で、環境省は日本の気候対策や環境技術を紹介する「ジャパン・パビリオン」を設置した。アマゾン初開催となった今回は、廃棄物発電、産業の脱炭素化、暑熱対策と省エネ、衛星を用いた農林業・海域モニタリング、ブルーカーボン(海洋生態系が光合成によって大気中の二酸化炭素を取り込み、海底に長期間貯留する炭素のこと)、バイオ素材、表土再生材など、気候危機に対応する多様な日本の技術が紹介され、会場には連日多くの来場者が訪れた。本寄稿では、ジャパン・パビリオンに参加した日本企業9社と環境省(計10団体)の取り組みを①衛星データ活用、②エネルギー転換・暑熱対策、③循環型社会の三つのテーマに分類し、4回連載で紹介する。
気候危機の影響が激化するブラジルでは、森林火災の早期検知、違法伐採の監視、農地の生産性向上、水災害リスクの予測、沿岸域でのブルーカーボン回復など「どこで何が起きているのか」を正確に把握することが、持続可能な土地・水資源管理において、以前より重要になっている。
第1回ではこの課題に対し、衛星データと解析技術でソリューションを提示する2社を取り上げる。
アークエッジ:超小型衛星で農業・森林・水資源を「可視化」
東京大学・中須賀研究室を母体に2018年に創業したアークエッジ・スペースは、超小型衛星の開発・製造からデータを活用したサービス提供までを一貫して行う宇宙スタートアップだ。
ブラジルでの展開は大きく二つある。一つは、衛星×IoTセンサーを組み合わせた農業・森林・水資源のモニタリングだ。土壌水分量、温度、日陰量などを地上のLoRaセンサーで取得し、衛星画像と統合することで、アグロフォレストリーの健全度把握、不法伐採の兆候検知、緑地回復の追跡など、多様な用途に応用できる。隣国パラグアイでは、過去60年の降雨・河川水位データと衛星観測を組み合わせることで、洪水リスクの早期警戒モデルを構築する実証が進んでいる。
もう一つは農牧研究公社(EMBRAPA)、金融機関、トメアスー総合農業協同組合(CAMTA)等と連携する「AgForest Lab」構想だ。衛星データを使ってCO2の削減効果など国際基準の正確なエビデンスを提供し、金融の分野につなぐことで、ESG投資やグリーンボンドを呼び込む狙いがある。
会場では「衛星×IoTでここまでできるのか」と驚く声が多く寄せられたという。CEO室室長の落合雅哉氏は、「小型衛星は多数展開することで精度を高められる。従来型の衛星ではデータ取得の間隔が空いてしまう場面でも、よりタイムリーな情報提供が可能になる」と語る。衛星データを、農業、森林、沿岸域、災害対策などの現場に結びつける同社の試みは、ブラジルでの社会実装に向けて確実に動き出している。
日本工営:沿岸のブルーカーボン適地を〝見える化〟する 「MobaDAS」
1946年創業の日本工営は、河川・道路・上下水道など公共インフラの調査・設計を国内外で手がける総合コンサルティング企業だ。同社環境技術部の中川原宏昭氏が出展したのは、藻場(海草・海藻)やマングローブといったブルーカーボン生態系の「生育に適した場所」を可視化する統合システム「MobaDAS(モバダス)」だ。
ブルーカーボンは森林に続く新たな炭素吸収源として国際的に注目され、特に日本は研究・技術でリードする分野でもある。しかし、藻場やマングローブは海中にあるため、どこに植えれば成功するのか判断が難しい。必要なデータ(水温、標高、水質、光量など)は省庁や研究機関ごとに分散し、形式も異なるため「現場ではアクセスや整理が難しい」という声が多いと中川原氏は説明する。
MobaDASはこうした課題に対応し、水温・水質・光量・海底地質などの環境データを一元化して、生育適地を地図上に示すことができる。データが揃っていなくても生育ポテンシャルを推定でき、地域特性や海藻・マングローブの種類に応じて条件を調整(カスタマイズ)できる点が特徴である。これにより、植林や再生計画の判断が容易になる。
藻場やマングローブ再生は、将来的にカーボンクレジット創出につながるだけでなく、漁業資源の回復や沿岸生態系の健全化など、複数の共通便益(コベネフィット)をもたらす可能性もある。同社はすでにベトナムでトライアル版を作成し、マングローブ再生の適地判定に活用できるか検証を進めている。
ブラジルはインドネシアと並ぶ世界有数のマングローブ保有国であり、沿岸域には大きなポテンシャルが存在する。展示では行政関係者を中心に関心が寄せられ、今後の連絡や協議が始まりつつあるという。(続く、武田エリアス真由子記者)








