仁尾さん10年越しボリビア撮影=写真展「Neo-andina 15-25」開催中
「外国人としてラテンアメリカを見る立場から、ブラジルを含むこの地域の多様性を写真で示したい」――そう語るのは、サンパウロ市在住の日本人写真家・仁尾帯刀(にお・たてわき)さん(54歳、兵庫県出身)だ。ボリビアの高原都市エル・アルトにある極彩色の建築群「ネオ・アンディーナ」を、2015年から10年がかりで撮影。それを含む約60点を紹介する写真展「Neo-andina 15-25」が、サンパウロ大学(USP)附属のマリア・アントニア大学センターで開催中だ。
エル・アルトは標高約4050メートル、首都ラパスの山手に広がる衛星都市で、人口の7割以上を先住民系が占める。その街並みでひときわ目を引くのが、パーティーハウスとして建てられたカラフルな建築群だ。
先住民初の大統領エボ・モラレス氏の政権下(2006〜19年)で、経済状況が好転した先住民層が、自らのステータスと祝祭文化を象徴する場として建設した。祝い事やパーティーを重んじる文化と結びつき、街中に増えていった極彩色の建物は、先住民の誇りと自己表現の象徴となった。
その建築様式を代表するのが、ボリビア人建築家フレディ・ママニ。アンデスの伝統的美意識を現代都市に落とし込み、主に中国から輸入された安価で装飾性の高い建材を用いた幾何学的で華やかなデザインは、ラテンアメリカの新美学として注目を集めている。
仁尾さんが初めてボリビアを訪れたのは2013年。「ラテンアメリカでも、ここまで先住民の都市文化が前面に出ている場所は他にない」と強く惹かれた。15年から17年にかけて本格的に撮影を行い、25年に再訪すると、政権交代を経て都市インフラは整備されつつある一方、街の大半はいまだ赤レンガの建物が並び、その中でパーティーハウスだけが突出した存在感を放っていた。
仁尾さんは「平均的には貧しい街の中で、あの建物だけが際立って見える。そのコントラストがとても象徴的」と語る。ドローンも使用し、10年前と現在を対比する構成でまとめた。「撮っていて面白い、魅力的だと感じるものを撮りたい。その積み重ねが説得力になるのでは」と語る。
サンパウロ市のボリビア移民コミュニティも撮影対象に。当地への新来外国人の中でも最も多く、若者の動きも活発化しているという。
仁尾さんは家族の仕事の関係で幼少期にタンザニアで2年間、高校時代にもアフリカに約2カ月滞在。父が1960年代にブラジル移住を試みたことから、幼い頃から家では当地音楽が流れ、海外やブラジルを身近に感じて育った。
94年に大学を卒業し、卒業旅行で初めて来伯。96年には非営利留学団体「日伯交流協会」の16期生としてバイア州サルバドール市に滞在。98年から2001年まではJICA派遣で日伯交流協会事務員としてサンパウロ市に3年間在籍し、昼は仕事、夜は写真学校に通った。経済的理由から中退したが写真への思いは消えず、メディア関連の仕事を通じて経験を積んできた。
仁尾さんは「言葉だけでは届かない相手とも、写真を通して対話が生まれ意見交換ができる。その瞬間が楽しい」と語り、外国人としてラテンアメリカを見る視点を写真で提示し続けたいと話す。
会場では仁尾さんの写真やビデオのほか、学生による動画作品4点も紹介。企画・構成はUSP建築都市デザイン学部(FAU)のイヴォ・ジロト副教授とキュレーターのディエゴ・マトス氏が担当し、建築史家ギリェルメ・ウィスニック氏が監修を務める。
展覧会は来年3月15日まで。入場無料。火曜から日曜・祝日の午前10時から午後6時まで。会場はサンパウロ市ヴィラ・ブアルキ区マリア・アントニア街258番地。詳細はサイト(www.mariantonia.prceu.usp.br/obras-apresentam-arquitetura-neo-andina-em-exposicao/)で。









