【2026年新年号】まだ見えない大統領選候補者=左派ルーラ一択、右派選択肢多数《記者コラム》
2026年、ブラジルでは4年に1度の、大統領戦を含む統一選挙が行われる。このところ、この4年に一度の選挙のたびにブラジルでは大きな動乱が巻き起こっている。そろそろ静かな選挙をと願う声も聞こえるが、そういうわけにはいかなさそうな予感だ。
2014年以降の激動
2014年は選挙結果発表後に、アエシオ・ネーヴェス氏の、ジルマ氏の当選結果を認めない抵抗を行った。思えばこれが動乱のはじまりだった。ジルマ氏罷免、アエシオ氏失脚、さらに8年ぶりの大統領復帰を狙ったルーラ氏が実刑で出馬ができなかった2018年、遊説先の刺傷事件で有利に立ったボルソナロ氏が大統領に。
そして2022年、実刑が解かれたルーラ氏がリターン・マッチでボルソナロ氏に勝利。だが、証拠もなく「ルーラ陣営に違反があった」と軍施設前の施設で抗議を行ったボルソナロ派の人々が翌2023年1月8日に三権中枢施設襲撃事件を実行。ブラジル現代史に戦慄が走った。
そして、この事件の背後で前政権関係者たちがルーラ氏の就任を阻むクーデター行為を行おうとしていた疑惑も浮上。このクーデター疑惑の裁判でボルソナロ氏が27年3カ月の判決を受け、服役を開始したところで次の大統領選1年前を迎えている。
どうなる、ボルソナロ家?
選挙の争点は、誰がボルソナロ氏の代理候補となるかだ。12月5日に、長男フラヴィオ上議(自由党・PL)がボルソナロ氏から、自身の出馬が正式に認められない場合は代理となれと言われたことを公表した。
だが、これが2026年10月の時点で、果たしてその名が大統領選にあるのか、それは微妙なところだ。それは、議会最大勢力の中道勢力セントロン系の政党と、聖市の金融街ファリア・リマが揃って強い反感を示しているためだ。
理由には、ボルソナロ氏を大統領にした時代に、それによって受けた具体的な恩恵が見えなかったことにある。ボルソナロ氏が2018年に当選を果たした決め手のひとつに、新自由主義経済のシカゴ学派の学者パウロ・ゲデス氏が当選の暁には財相に就任と約束され、そのアイデアをファリア・リマが強く気に入ったこともあった。
だが、いざ同氏が財相についたところで伯国経済に目に見えるような成果が得られなかった。もともとボルソナロ氏は経済関係の知識がウィーク・ポイントと当時の選挙前から目されており、その後もそれ以上の策がなかった。
さらにボルソナロ氏が、極右系のネットのインフルエンサーたちと共に左派の人々を挑発するような言動を頻繁に行い、世論が二分する状況を作ったことにも、とりわけセントロン系の政治家たちは飽きている。ウニオンのアントニオ・ルエダ党首が「もう政治2極化はこりごりだ」と、フラヴィオ氏の名が公表された直後に思わず発言したほど、ボルソナロ一家の名は候補としては望まれていない。
見えないインフルエンサー候補
とはいえ、右派系の有権者たちが、2014年まで普通だったような、従来の保守政治家のような人を大統領に選びたがるのかといえば、そこにまず疑問符はつく。特にジルマ政権の際に女性の権利やLGBTなどの社会的な台頭があったが、そうした動きに対抗するべく過激な保守性をネットで主張することでボルソナロ氏は台頭してきたし、「あれくらいでないと左派には対抗できない」と支持者たちが信じていたふしもあった。
その象徴とも言えたのが2024年の聖市市長選でのパブロ・マルサル氏の健闘だ。政治家経験のない自己啓発家ながら、その過激言動、時には虚偽拡散でも物議を醸した同氏は、敗れはしたものの僅差での3位につけていた。ボルソナロ氏に票を投じてきた人たちの中には、もしあのときのマルサル氏のような候補が存在するのであれば投票したいという気持ちはあるような気はする。
だが、マルサル氏からは国政を目指す声はなく、彼と似たようなタイプの候補が出馬表明している話もない。強いて彼に近いタイプをあげれば、ボルソナロ氏の三男のエドゥアルド下議だろう。当初、後継候補で有力視されていたのはフラヴィオ氏でなく彼だったのは、SNSなどでの歯に衣を着せない、時に父親以上に過激な言動を行うところがある彼に、牽引力の可能性を見ていたからであろう。
だが、彼は2025年、父を助けようとするあまりに、渡米してホワイトハウスでロビー活動。それが結果的に米国政府の伯国製品への50%課税へとつながり、その原因を作ったとして反感を買った。その上、父のクーデター裁判を終わらせることができず、逆にトランプ大統領とルーラ大統領が接近してしまったことで支持者の評価まで下げてしまったのは痛かった。これがなければ、大統領選を戦っていたのは彼だっただろう。
ルーラ対抗の知事候補は?
では、誰が今回の大統領選でルーラ氏の対抗馬となるか。それは、誰かよほど彗星のような存在が突然候補にならない限りは、保守系知事のうちの誰かにしかならないだろう。
私が可能性のある順番で考えると、パラナ州知事のラチーニョ・ジュニオル氏(社会民主党・PSD)、サンパウロ州知事のタルシジオ・デ・フレイタス氏(共和者・RP)、ゴイアス州知事のロナウド・カイアード氏(ウニオン)、ミナス・ジェライス州のロメウ・ゼマ氏(ノーヴォ)だ。
ゼマ氏は知名度はあるが、所属政党のノーヴォが長年、「右派のオルタナティブ(少数派選択肢)」のイメージが強く、ボルソナロ派の受けが良くない。
カイアード氏は政界のベテランだが、それゆえ、旧来の政治家風に見えるところが有権者にアピールするかに課題がある。
そういうことでタルシジオ氏かラチーニョ氏の選択になる。この2人からどちらが選ばれるかは「政界のキングメーカーたち」の判断となりそうだ。
そのキングメーカーとは、進歩党(PP)党首のシロ・ノゲイラ氏とPSD党首のジルベルト・カサビ氏だ。両者ともにタルシジオ氏を推したいのが本音だ。カサビ氏に至っては、サンパウロ州政府で要職も任されている間柄だ。
タルシジオ氏の受けが良いのは、実務派で産業界とのつながりが良い上に、極右インフルエンサー政治家と違って、自ら左派を挑発するような言動を行ったりしないことだ。そこに二極化の終わりを望む人も少なくない。
問題は、ボルソナロ政権時にインフラ相を務めたタルシジオ氏が、ボルソナロ氏への強い忠誠心を持っていることだ。ボルソナロ氏を裏切ってまで出世しようとする意欲がない。
その結果、消去法的にラチーニョ氏が残る。同氏は有名司会者ラチーニョ氏の息子ということで知名度があり、若いながらもパラナ州で高支持率の実績を残している。将来への新鮮さで言うなら、こちらかもしれない。
キングメーカーの方で言えば、スキャンダルを抱えるノゲイラ氏がマスター銀行や燃料大手のフィッチと関係のあることが取り沙汰され、展開によっては足を掬われる可能性がある。となると、カサビ氏の反応次第ということになる。同氏の場合、ルーラ政権では大臣の輩出などの協力も行っているため、選挙で勝算がないと踏めばルーラ氏支持継続の可能性もありえる。
ルーラの最大の敵は「高齢」か?
一方、左派側の候補は、ルーラ氏1択でほぼ間違いないだろう。ただ、80歳を超える高齢での出馬ゆえ、健康面で何が起こるかわからない。ジェラルド・アルキミン副大統領、フェルナンド・ハダジ財相らのリリーフ待機はある程度は必要だろう。
あと、大統領選を盛り上げる伏兵候補も欲しいところだ。今年の場合、過去3度、3位に入ったシロ・ゴメス氏がセアラー州知事選に回るが、その分、10、14年におけるマリーナ・シルヴァ氏や22年におけるシモーネ・テベテ氏のような女性候補が誰か出てこないか気になるところだ。(沢田太陽)








