『ブラジル特報』が映す生の姿=「世界の今」を掘り下げる機関誌
日本ブラジル中央協会(www.nipobra.com)が発行する機関誌『ブラジル特報』(編集人・岸和田仁)の1690号が1月に発行された。環境、文化、社会、ビジネスを横断しながら、日伯関係の「いま」を丁寧に掘り下げている。
今号の特集は、ベレンで開かれた国連気候変動会議COP30。民間企業の立場から参加した現場報告や、マット・グロッソ州で先住民の暮らしに向き合ったルポが並び、気候変動という巨大な課題を抽象論に終わらせず、環境と経済の接点を静かに照らす。
紀行欄「あの町この町」では、アマゾン川中流の町パリンチンスを紹介。赤と青に分かれて競う民俗祭ボイ・ブンバの熱狂を、歴史や日系移民との関わりを織り交ぜながら描く。遠い異国の風景が、読み手の記憶に親密に触れてくる。
後半には、統計や制度論では捉えきれないブラジル社会の「肌触り」が、静かに、しかし確かな筆致で描き込まれている。国際会議や政治動向を追った前半からページをめくると、読者は一転して、街の音や匂い、人々の息遣いが立ち上がる現場へと導かれる。「ブラジル現地報告 冷えたビールとサンバさえあれば」は、サンパウロ市バラ・フンダ区を舞台に、文化が都市の評価を塗り替えていく過程を描く。世界ランキングで3位に躍進した背景にあったのは、大規模開発でも観光キャンペーンでもない。冷えたビールとサンバという、ごく日常的な楽しみが人を引き寄せ、地域に誇りと連帯を生んだ。その積み重ねを、筆者は軽妙さを保ちながらも社会学的視線で掘り下げ、音楽と場の力が都市を再生する可能性を示している。
連載「文化評論」では、ノーベル文学賞作家バルガス・リョサの大作『世界終末戦争』(旦敬介訳)を再読する。19世紀末、ブラジル北東部で起きたカヌードス戦争を描いたこの小説は、狂信と国家権力、近代化の暴力が衝突する悲劇を通して、歴史の深層を照らす。評論は、単なる文学解説にとどまらず、分断と排除が進む現代社会との連続性を浮かび上がらせ、読者に「過去を読む意味」を問いかける。
映画祭紹介やエッセイ、新刊案内も後半を彩る。いずれも文化を消費物としてではなく、人が生きる現場から立ち上がる営みとして捉えている点が印象的だ。ブラジルを知ることが、そのまま世界を考える行為であることを、静かに教えてくれる。









