小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=20
九時には朝食を告げるラッパが鳴る。若者たちはこの九時を待ちきれずにラッパの真似をして、朝食を促す。時計を持たぬ者はこの贋ラッパに引っかかることもある。
「本もののラッパが鳴ってるわ」
律子はコーヒーをさびる(*)手を休めて、埃まみれの顔を頬かむりの布で拭った。上気した顔が若々しい。採取したコーヒーの実は袋に入れて回収路まで担ぎ出し、田倉の分と合わせて袋詰めにした。一俵は標準三〇キロである。
今年のコーヒーは豊作であり、一人で一日に十五、六俵も採取するというが、慣れない律子にはそうはいかない。
「姉ちゃん、何俵さびたの」
弁当を運んできた浩二が訊いた...
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