小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=54
八代は短歌の他に小説にも関心をもっていて、自分たちが国を出る年(一九三二年)将来を嘱望されていた梶井基次郎の病没(肺結核)した話をもち出した。簡潔な文章には人の心をえぐるような悲しみがにじんでいる。筆致は、自分の感受性にたよったもので、幻想的感覚の詩人と呼ぶべきかもしれない。代表作の短篇『檸檬』と散文詩『桜の樹の下には』は先生の家にあるから興味があれば貸してあげよう。流行作家と言われた菊池寛などの作品は雑誌《キング》などにも掲載されていて、生徒の口に出ることはあったが、梶井の名前は誰も知らなかった。
野外の月光が倉庫の入口を照らしていた。収穫後の月は冷たく澄ん...
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