小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=78
田倉は晩酌をちびちびやりながら愚痴めいたことを言った。飲みすぎると家族に悪態をついたりもするが、適度の酒は彼の頭の回転を良くした。
「もう二、三年頑張って戦争が終ったら日本へ帰るつもりやったけど、この調子じゃあかん。ブラジルに住み着くんだったら、もっとこの社会に溶け込めるよう努めるべきだった。俺の考え方はあまり利口でなかったようだ。以前、或る機関からの奨励による《育英制度》があって、息子の奨学を勧められもした。しかし、俺は百姓に徹するため、それを断った。今考えるに、お前たちの教育もおろそかにしてしまったようだ」
「戦争が巻き起こした悲劇でしょう。お父さんの責任...
有料会員限定コンテンツ
この記事の続きは有料会員限定コンテンツです。閲覧するには記事閲覧権限の取得が必要です。
認証情報を確認中...
有料記事閲覧について:
PDF会員は月に1記事まで、WEB/PDF会員はすべての有料記事を閲覧できます。
PDF会員の方へ:
すでにログインしている場合は、「今すぐ記事を読む」ボタンをクリックすると記事を閲覧できます。サーバー側で認証状態を確認できない場合でも、このボタンから直接アクセスできます。