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エルサルバドル=「俺は世界一クールな独裁者」=殺人発生率を46分の1に

2024年2月8日

2016年、妻と一緒にいる大統領になる以前のナジブ・ブケレ氏(Presidencia El Salvador from San Salvador, El Salvador, América Central, CC0, via Wikimedia Commons)
2016年、妻と一緒にいる大統領になる以前のナジブ・ブケレ氏(Presidencia El Salvador from San Salvador, El Salvador, América Central, CC0, via Wikimedia Commons)

 中米エルサルバドルで4日に行われた大統領選で、現職のナジブ・ブケレ大統領(42)が圧倒的多数の支持を得て再選された。同氏は自国の犯罪率を劇的に低下させるために権威主義モデルを採用し、その功罪が国内外で議論を呼んでいる。1月11日付G1サイト(1)が報じている。
 当時わずか37歳、2019年6月から大統領職に就いているブケレ氏は、自らを「世界一クールな独裁者」と称し、90%の支持率を武器に権威主義的な手法を用いて国内の犯罪率を劇的に低下させた。独裁者的な政治手法が国民から認められて、選挙で圧倒的な信認を得て選ばれた新しいタイプの政治家だ。
 同氏は「マラス」と呼ばれるギャングの犯罪活動を抑制したことで、国民の支持を集めた。この犯罪組織は30年間国を支配し、2015年には人口10万人あたり107件の殺人発生率を記録していた。これは世界最悪水準だ。
 ブケレ氏は「テロリスト監禁センター」と呼ばれる、最高度のセキュリティを備え、4万人収容可能なアメリカ大陸で最大級の刑務所を建設した。マットレスもない狭い雑居房に、100人以上の受刑者を収容している。
 昨年10月に就任したエクアドルのダニエル・ノボア新大統領が発表した施策の一部(巨大刑務所センターの創設と刑務所船の購入)は、このブケレ氏のモデルに基づいている。
 22年以降、エルサルバドルでは「例外状態」(estado de exceção)が宣言され、これまで11回も更新されている。これは非常事態として憲法を一時的に停止した「例外状態」という非常令で、これによって令状なしの逮捕を大量に行い、ギャングに所属すると疑われる7万人を刑務所に送り込んだ。更には検察庁長官を解任し、最高裁判事を味方に引き入れた。
 だが、この民主主義基準の無視した、強権的なやり方と巨大刑務所により、エルサルバドルにおける犯罪率は劇的に減少した。2023年には人口10万人当たりの殺人発生率がなんと2・3件まで減少した。8年前の46分の1だ。
 組織犯罪に対する厳しい取り締まりとポピュリスト的なモデルによって、ブケレ氏はエルサルバドルの救世主のような存在になった。同国では大統領2期目は違憲とされているが、21年、親ブケレ派が多数を占める立法議会は、検察庁長官と最高裁判事5人を解任。その後、大統領は5人の判事を任命し、選挙期間前に休暇を取ることを条件に再出馬が認められる憲法解釈が認められるようになった。
 同氏は選挙の6カ月前に辞職すれば連続任期が認められるという、憲法裁判所の新規則に従って休暇を取り、私設秘書が暫定的に国の舵取りをすることに。
 選挙戦のさなか、同氏は「私に投票しなければギャングは解放される」というスローガンを掲げて集会を盛り上げ、その権威主義モデルを他国に広めた。
 とはいえ、同氏による手あたり次第の投獄は、米州人権委員会やその他の市民権擁護団体から批判を浴びている。合法的な手続きの欠如、拘留期間の無期限延長、受刑者が受ける虐待や劣悪な状況も懸念されている。


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