アラン容疑者=米国が身柄引渡し拒否=ブラジルより緩い言論規制=緊迫した交渉やり取り

ブラジル政府は、逮捕状が出て現在米国に逃亡中の極右ジャーナリスト、アラン・ドス・サントス容疑者の身柄引き渡しを米国に要求したが、米国政府が拒否した。その背景には米国とブラジルの間をめぐる「法の解釈」をめぐる対立もあった。13日付フォーリャ紙(1)やUOLサイト(2)、ブラジル247(3)が報じている。
極右系サイト「テルサ・リーヴレ」を主宰するアラン容疑者は最高裁のフェイクニュース捜査で早くから捜査対象となっており、同捜査担当のアレッシャンドレ・デ・モラエス判事が誹謗中傷や名誉毀損の嫌疑で一時拘束を命じた。
だが、アラン氏はこの命令が出る前から既に米国に滞在しており、現在も逮捕は行われていない。
アラン容疑者は2014年にサイト「テルサ・リーヴレ」を開始した。極右系サイトとして知られるようになったのは、2018年の大統領選の際にボルソナロ氏を熱心に支持し、ボルソナロ一家と接近したことによるものだ。
ボルソナロ政権後は三男エドゥアルド下議所有の住所を借りてサイトの運営を行い、一説では大統領次男カルロス氏がリーダー役とされていた前政権の非公式通信部隊「憎悪部隊」の一員だったとも言われている。当時のアラン氏は、コロナウイルスや同ワクチンなどに関する虚報拡散でも知られていた。
だが、同容疑者の主張が連邦議会の閉鎖や州知事や市長の解任、最高裁の閉鎖、軍事介入などに及ぶに連れ、モラエス判事から問題視されるようになり、フェイクニュース捜査での最大の対象の一人となった。2021年10月21日には「虚偽拡散」と「反民主主義勢力への資金提供」を理由に逮捕命令が出ただけでなく、テルサ・リーヴレを始めとする同氏関連のSNSアカウントも停止された。
モラエス判事は2022年にもアラン氏の身柄の引き渡しを求めたが、拒否されている。23年にルーラ政権に変わってからは法務省が強く同容疑者の身柄引き渡しに関して動いてきた。
昨年の後半には米国の当局がFBI捜査官を引き連れて来伯し、フラヴィオ・ジノ法相(当時)とも会談を行ったが、この際に、同氏の引き渡しに関しても白熱した議論が行われていたことが明らかとなっている。
この会議の際、ジノ氏は、アラン氏がクーデターを扇動するような発言を行った動画を英語の字幕付きで見せたが、米国側のスタッフの一人が「ただの言葉じゃないか」と反論したという。それに対し、ブラジル法務省の関係者が腹を立て、「これが1月8日三権中枢施設襲撃事件に繋がったのに」と反論し、議論になったという。
今回の身柄引き渡し要請は、この会議から少し経った後に行われた。これに対し、米国側ははっきりと否定する形では返答しなかったものの、「資金洗浄や組織犯罪などに絡んだ場合は協力する」という回答を行ったという。
米国と伯国の間での法解釈の違いは、ヴァザ・ジャット報道を始め、ルーラ大統領よりの発言が目立っていた米国人ジャーナリストのグレン・グリーンウォルド氏がモラエス判事に関し、「ボルソナロ主義に対して検閲的」との批判を行ったことなどからもうかがわれる。だが、同氏はアラン氏に関して、「専制主義的なばか者」と称してもいる。