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下院=中絶厳罰法案を緊急扱い=強姦犯より堕胎者に厳罰=議論さけるやり方に抗議沸騰

2024年6月15日

サンパウロ市での抗議行動(Paulo Pinto/Agencia Brasil)
サンパウロ市での抗議行動(Paulo Pinto/Agencia Brasil)

 12日、妊娠22週を超える中絶に対して殺人罪を適用する法案を緊急審議扱いとすることを下院が承認した。強姦被害を受けた10代の少女の場合に生じ得る問題点などが事前に指摘されていたにも関わらず、同法案は緊急案件にされたため、特別委員会などで専門的かつ十分な議論を経ずに本会議で審議・採決することが可能となった。そのため翌13日に女性や人権活動家らが各地で強い抗議運動を行った。同日付G1サイト(1)などが報じている。
 12日に緊急審議扱いとすることが承認された法案1904/24号は、これまでの中絶の基準そのものを変えるものではない。ブラジルでは「強姦による妊娠」「妊婦に生命の危険がある」「胎児が無脳症」の場合は中絶を認めることが最高裁の判決によって定められているが、中絶する時の妊娠期間には制限がない。
 また、それ以外の非合法的な中絶は、妊婦によるものか、同意を得たものかなどにより1~10年の刑が科される。
 だが、今回の法案は、中絶が認められる期間を22週に限定。これを超えてから中絶を行った場合は合法、非合法に関わらず殺人罪とみなし、6〜20年の実刑を科す予定だ。この基準は強姦を受けた場合も例外なく適用され、強姦被害者の刑期は加害者の刑期より長くなる。
 現行法では加害者の期は、相手が成人なら6~10年、相手が未成年なら8~12年、相手が14歳未満か抵抗する能力がない弱者の場合は8~15年で、弱者に対する強姦で被害者に重傷を負わせた場合だけが20年に達し得る。
 また、22週という基準にも、現状を無視したものとする批判が出ている。特に、10代の少女の場合、強姦の意味が分かっていない場合や、生理の周期が不安定なために22週以内に妊娠に気づかない場合が少なくないためだ。ブラジルでの強姦事件は8分に1件起きており、被害者の多くは未成年者であるため、2020年にペルナンブコ州で起きた叔父から強姦された10歳女児の中絶訴訟(2)など、10代の少女の中絶を巡った裁判事例は少なくない。
 今回の法案の契機となったのは、連邦医学審議会(CFM)が22週以上の妊婦の中絶方法として国際的にも使用されている「胎児心停止」の適用を認めない判断を下したことだ。この件は5月に最高裁のアレッシャンドレ・デ・モラエス判事が「最高裁で審理する案件」とし、CFMによる適用禁止の判断を差し止めている。
 法案1904号を推進しているのは、かねてから中絶そのものに強く反対している保守派を中心とするグループだ。同法案報告官のソステネス・カヴァルカンテ下議(自由党・PL)も、下院の福音派議員の会長を務めている人物だ(3)
 同法案の緊急審議承認の報道後、女性たちからは強い反発が起こり、翌13日にはサンパウロ市、リオ、ブラジリアなどでデモが行われた。
 サンパウロ市パウリスタ大通りで行われたデモでは「子供は母親ではない」「加害者は父親ではない」と書かれたプラカードが掲げられ、子供の強姦被害に対する理解をと強く訴えられた。2022年は国内で7万4930件の強姦被害の届出があり、被害者の61・4%は13歳までの少女だった。
 これらの抗議運動で批判の的とされたアルトゥール・リラ下院議長(進歩党・PP)は、投票の具体的な期日は未定とした上で、「従来の中絶を法的に否定するようなものにはならない」との見解を述べた。
 それに対し、ロドリゴ・パシェコ上院議長(社会民主党・PSD)は、「上院では、事前の特別委員会の審議なしで全体承認することはありえない」として、リラ下院議長のやり方を批判している(4)


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