site.title

《記者コラム》子供を失った親や家族のケア=国家政策を制定する法令裁可

2025年5月29日

出産を待つ女性(©Divulgação/Fiocruz)
出産を待つ女性(©Divulgação/Fiocruz)

 妊娠中や出産中、新生児期に子供を失った女性や家族に対するケアを充実するため、統一医療保健システム(SUS)で心理的治療と組織的な支援を受けることを保証する国家政策を定めた法令をルーラ大統領が裁可し、26日付官報に掲載したと26日付G1サイトなど(1)(2)が報じた。
 国家政策「ウマニザソン・ド・ルト・マテルノ・エ・パレンタル(Humanização do Luto Materno e Parental、母親や家族の悲しみの人間化)」では、子供を失うという体験が心身共に大きな衝撃や痛みを覚えるものであることを理解し、母親や家族を心理面などで支援すること、死因解明や将来の妊娠にも配慮すること、現場の医師や医療スタッフに特別な訓練を施すことなどを定めている。
 また、胎児や死産児を埋葬または火葬する権利、死産児に名前を付ける権利、出生年月日と場所、可能であれば指紋と足型の記録を記載した死亡証明書を請求する権利を与え、葬儀を行うか否かの選択権や、家族の信仰や決定を尊重しつつ、葬儀の準備に参加する機会も与えるという。
 妊娠中や出産中に子供を失う例は流産や死産などで、新生児期に子供を失う例には突然死や事故死などが考えられる。ブラジルでは2020~23年に17・2万件の胎児死亡が記録されており、2024年も、胎児死亡が2万2919件、新生児死亡も2万件近く起きている。
 出産前後の女性はそれでなくとも、ホルモンバランスの変化や育児の疲れ、不安などで情緒不安定になり、マタニティブルーという言葉さえある。そこに子供を失うという事態が起これば、母親や家族が受ける衝撃はなおのこと大きい。母親の中には自分のせいだと思い込み、自暴自棄になる例や、飲んでくれる子供がいなくなっても母乳が止まらず、乳腺炎を起こす例などもあり、通常の出産時とは異なるケアが必要だが、医療現場や周囲の人が手を伸べてくれず、途方に暮れる人も多い。
 保健省は地域の大学や研究機関と連携し、影響を受けた家族へのケアをより人間らしくするためのガイドラインを策定してきたが、それを国家政策としてまとめたのが新法だ。
 新法発効は90日後だが、これにより、悲しみや失意の中にある女性や家族が慰められ、心理面や財政面を含めた継続的なケアを受けられるようになれば、子供を失ったことに続く新たな悲劇回避の可能性が高まる。流産や死産の原因が解明され、次の妊娠に向けた心身の準備が整えば、新しい家族を迎える可能性も出てくる。
 馴染みがない言葉かもしれないが「人間化」には、人間性を与える、情け深くする、情け深くなる、親切にするといった意味がある。国家政策として取り組むのには遅きに失した感さえあるが、新たな命の喪失や家庭崩壊などの悪夢が少しでも減り、悲しみの中にいる人達が新しい希望に向かって歩き始めるためには役立つはず。
 悲しみの涙が乾くのには時間がかかるし、喜びの涙に代わることは決して容易ではないが、子供を失った悲しみが悲しみのままで終わらないためにも、新たな法律が機能することを願って止まない。(み)

(1)https://g1.globo.com/saude/noticia/2025/05/26/lula-sanciona-lei-do-luto-parental-veja-o-que-muda.ghtml

(2)https://agenciabrasil.ebc.com.br/saude/noticia/2025-05/politica-de-humanizacao-do-luto-materno-entra-em-vigor-em-90-dias


《記者コラム》本門佛立宗と水野龍の遺志=日本移民事業は失敗だったか?=南米最大の仏教新寺院の意味前の記事 《記者コラム》本門佛立宗と水野龍の遺志=日本移民事業は失敗だったか?=南米最大の仏教新寺院の意味《記者コラム》カンヌ映画祭で快挙!=さらなるオスカーへ向け第一歩次の記事《記者コラム》カンヌ映画祭で快挙!=さらなるオスカーへ向け第一歩
Loading...