ブラジル マンダカルー物語=黒木千阿子=(17)
散歩とはいえ、結構忙しい散歩です。
どうしてかと言うと、日出ずる国から毎朝やってくるお日様に挨拶くらいはしたいですし、そのお日様が眠りこけている山々に眩しい光を浴びせて、一つ一つ起こしていく様子も見たいからです。
山は、緑とは限りません。桃色に染まる山もあれば、紫に煙る山もあるのです。
その山の色の移り変わりを見逃さないためにも、私は皆がまだ寝静まっている頃に起きだして、トコトコと誰もいない坂道を上がっていくのです。
丘では、山羊たちが朝焼けの空を背景にして群れをなして横になっています。近付いても、立ち上がろうともしません。
そこには、鯉幟りを揚げるために立てた二本の柱があります。その柱の上に一羽ずつ止まっているのは黑禿鷹。
丘の頂上の、そのまた6メートル高い柱のてっぺんですから、見晴台としては最高なのでしょうか、禿鷹はなかなかその場から離れようとはしません。偉そうな顔つきで、時おり羽を広げたりして、私を見下ろしています。
私は禿鷹のいる柱にもたれて白霧からめざめようとしているジェキエーの街を見渡しながら、サン・アントーニオ寺院の尖り屋根を探します。お伽の国のお城のようなその尖り屋根を見つけると、何故かほっとして今度は牧場の柵伝いに坂道を下ります。
ところがその柵にも禿鷹が勢揃いしていて、それこそタキシード姿の男性合唱団が「第九」を高らかに歌おうとしているかのようです。その前をおそるおそる通って牧場に向かいます。
牧場の真ん中を突っ切っているのは、合歓の並木道、その入口に立つ頃、太陽は完全な姿で山々の上に現れますが、まだ全てのものは眠っています。
犬も猫も、おしゃべりの鸚鵡も七面鳥も。そして、可愛い子どもたちもみんな、みん~な・・・・。
コンスタ川のゆったりとした流れは、朝日の下で眩しいほど光り輝いていますが、その川さえ眠ったようにじっとしています。
大空もそそり立つ山々も、遠く果てしなく続く山脈も、緑豊かな大地も、大らかな神々の姿そのもの。そこに立ち溢れるばかりの恵を受けて、この私の命は昨日よりも更に生き生きとよみがえってくるのです。
さて、今度は金雀枝の花が咲く林を抜けて、広々とした牧草地に出ます。