site.title

「採掘後の生活はどうなる?」=リチウムが奪う先住民の未来

2025年8月1日

アタカマ塩原(Foto: Romanceor, via Wikimedia Commons)
アタカマ塩原(Foto: Romanceor, via Wikimedia Commons)

 南米チリ北部のアタカマ塩原は、世界有数のリチウム埋蔵地として注目を集める一方で、採掘による環境負荷と地域社会への影響が深刻化している。電気自動車や再生可能エネルギーの鍵を握るリチウム需要の急増は、乾燥地帯の貴重な地下水資源を圧迫し、生態系の変化や先住民の伝統的生活の困難を招いている。環境保護と経済成長の狭間で揺れるチリの現状は、世界的なエネルギー転換の課題を象徴すると7月27日付BBCブラジル(1)が報じた。

 チリはオーストラリアに次ぐ世界第2位のリチウム生産国で、同国政府は23年、「国家リチウム戦略」を発表。公的企業と民間が連携して生産拡大を目指し、30年までに最大70%の増産を見込んでいる。一方で、地域住民らは地下水の過剰な汲み上げが湿地帯の乾燥や動植物の減少を招いていると訴える。

 アタカマ塩原周辺ではリチウムは地下の塩水を地表に汲み上げ、蒸発池で水分を飛ばすことで抽出される。この工程は極めて多量の水を必要とし、年間を通じて降水量の少ないこの地域においては生態系への影響が無視できないという。現地の先住民女性ラケル・セリナ・ロドリゲス氏は「かつては緑に覆われていた湿地が今では干上がり、草も動物も少なくなった」と証言する。

 ロス・フラメンコス国立保護区で働く生物学者ファビオラ・ゴンザレス氏も「水面の減少に伴い、フラミンゴの繁殖数も減っている。食物連鎖全体に影響が出ている」と警鐘を鳴らす。古代から蓄積されたアンデス山脈の地下水は回復に極めて長い時間を要するため、採取と補給のバランスが崩れれば生態系の回復は困難だと指摘されている。

 チリのリチウム生産大手ソシエダード・キミカ・イ・ミネラ・デ・チリ(SQM)は、地元コミュニティとの対話を進め、環境影響評価を実施するとともに新たな採掘技術の導入に取り組んでいると説明。同社は蒸発池を使用せず、塩水からリチウムを直接抽出する技術や、水分を再回収・再注入する方式の開発を進めており、31年本格運用を目指している。

 だが、住民側の不信感は根強い。ゴンザレス氏は「塩原が実験場にされている」と懸念を示し、採掘の負荷が気候変動の影響と重なり、地域の生活基盤を脅かしていると訴える。

 住民の一人サラ・プラサ氏は地域の将来について「塩原はリチウムを産出しますが、いつかは枯渇して採掘も終わります」と前置きし、「その後、ここの人々の暮らしはどうなるのでしょう? 水もなく農業もできなくなったら、一体何で暮らしていくのでしょう?」と涙を流した。

 「私は年齢のせいでその時の土地の様子を見ることはないかもしれないが、私たちの子どもや孫たちは見ることになります」と嘆く。「企業は地域に少しばかりの金銭を提供しているが、私はそんなお金より、自然と共に暮らし、飲み水がある生活がずっと続く方がよほどいい」と訴えた。

 水不足の影響は生活インフラにも及んでおり、ペイネ地域共同体の代表セルヒオ・クビージョス氏によれば、町は飲料水や電力、排水処理システムを全面的に再構築せざるを得なかったという。彼は「意思決定が遠く離れた首都サンティアゴで行われていることに問題がある」と訴え、先住民の声を政策に反映させるよう、政府に求めている。

 ロドリゲス氏は「リチウムは都市にとっては恩恵かもしれないが、我々にとっては害でしかない。かつての生活には戻れない」と語り、ゴンザレス氏も「電気自動車は誰のためか? 米国や欧州など先進国のためだ。それなのに、我々の水は奪われ、神聖な鳥たちが姿を消しつつある」と、理不尽さへの憤りを表した。


糖尿病の飼い主支える雑種犬=深い絆が生んだ異常感知力前の記事 糖尿病の飼い主支える雑種犬=深い絆が生んだ異常感知力元裁判官が運転誤り女性轢死=裸の女性が膝の上に乗って次の記事元裁判官が運転誤り女性轢死=裸の女性が膝の上に乗って
Loading...