〝防弾車Uber〟に脚光=ライノ、法人顧客獲得で急成長
 
          銃撃や強盗事件が絶えないサンパウロ市で、防弾車専用配車アプリが脚光を浴びている。防弾SUVを自社で運用するスタートアップ「ライノ(Rhino)」が、国外ファンド主導で1500万レ(約4億3千万円)を調達し、法人向け配車サービスの拡大に乗り出している。同社は〝防弾版Uber〟として存在感を強め、高付加価値モビリティ市場でオンデマンド輸送の高級セグメントを狙う。29日付ヴァロール紙など(1)(2)が報じた。
 
          同社は23年、ロシア出身のダニイル・セルグニン氏(ユーロケム元副社長)とアレクサンドル・カーバンコフ氏(ティンコフ銀行元幹部)が共同で設立した。社名「ライノ」は、英語で〝サイ〟を意味し、安全性と防護力を象徴するとともに、サービスのプレミアム志向を強調している。
創業以来、累計で4千万レの資金を調達しており、今回の出資にも既存投資家が参加。セルグニン氏によると、当初あった欧州系ファンドによる主導提案を断り、既存投資家との条件交渉を優先した。「優先事項は成長に直結する分野、チーム強化、マーケティングチャネルの拡充、車両フリートの拡大に資金を投入することだ」と述べた。
同氏はブラジルに移住後、市民が日常的に交通上の犯罪に晒されていることに衝撃を受けたという。単に安いだけの配車サービスではなく、安全と快適さを兼ね備えたアプリが求められていると痛感したと語る。
現在、同社は大サンパウロ市都市圏でのみサービスを提供しているが、登録ユーザーは約30万人に達する。ブラジル防弾協会(Abrablin)によれば、25年上半期の防弾車登録台数は前年同期比で11・5%増加している。これは都市部での需要の高まりが背景にある。
サービス開始当初は、サンパウロ市内でも高所得層が多い地区であるイタイン・ビビ、ヴィラ・ノヴァ・コンセイソン、ジャルジンス、モエマ、ピニェイロスなどに限定して運用し、段階的に他地域にも対象エリアを拡大していった。今後は、リオやブラジリアといった他都市へのサービス提供も計画されている。
創業時、同社は防弾SUVフリートの20%を自社購入し、残りはレンタカー会社から調達する形を採用、将来的な競争優位性を確保する戦略を取った。直近12カ月間で、自社運用の防弾SUVフリートを3倍に拡大。車種にはBYD「Song Plus」のハイブリッドSUVが含まれ、同社が管理・維持・給油・清掃まで責任を持つ形で運用されている。これに伴い、アクティブ顧客数は340%増加し、総売上高は同期間で700%の伸びを記録した。
サービスは独自開発の技術プラットフォームを基盤とし、即時マッチングシステムを備える。これにより、乗客と運転手がほぼ即時に割り当てられ、キャンセルの発生を防いでいる。
運転手は面接や心理評価を経て採用され、社内研修を受けることで、安全かつ質の高いサービス提供を担保しているという。少なくとも3年の運転経験と良好なマナーを持つことが条件で、第2言語の能力も評価される。報酬体系は従来型の歩合制ではなく、週40時間勤務で固定給4千レ(約11万5千円)を支払い、チップや評価に応じたインセンティブも用意する方式を採用している。労働時間は1日12時間を上限とし、過労運転の防止も図っている。
今回の資金調達により、同社は法人向け部門の拡大を加速させる計画だ。既存の企業顧客には三菱、ペプシコ、レデTV、Payface、Flytour、Revoが含まれており、セルグニン氏は「中期的には売上の50%を法人向け事業が占める見込みだ」と述べた。将来的にはコロンビアやメキシコなど、治安上のリスクが高い中南米諸国への展開も視野に入れている。









