ネイチャー誌=「今年の10人」にブラジル人科学者=病気伝染しない蚊を開発
科学誌ネイチャーが発表した「2025年科学に貢献した10人」に、農業工学者で公衆衛生のブラジル人研究者ルシアノ・モレイラ氏が選出された。このリストには、過去1年間に科学の最前線で顕著な貢献を果たした人物が名を連ねており、モレイラ氏は蚊の遺伝子操作を活用してデング熱、ジカ熱、チクングニア熱などの感染症拡大を抑制する可能性を開いたことで注目を集めている。8日付G1など(1)(2)(3)が報じた。
モレイラ氏が注目を集めているのは、感染症を媒介するネッタイシマカ(Aedes aegypti)の遺伝子操作を活用し、これらの病気の伝播を抑制する革新的な方法を確立した点だ。
モレイラ氏のチームが開発した方法では、ショウジョウバエなどいくつかの昆虫種に自然に存在するボルバキア(Wolbachia)細菌を使用する。この細菌をネッタイシマカの卵に導入する。ボルバキアは蚊の細胞内に生息し、蚊の体質を変える。デング熱やジカ熱を伝染させるには、ウイルスが蚊の体内で増殖する必要がある。だがこの細菌が存在すると、ウイルスは適切に複製できない。その結果、蚊は通常通り生活を続けるが、病気を伝染させなくなる。
さらに重要な点は、ボルバキアに感染した雌蚊は、卵にその細菌を感染させることだ。こうして新しい世代の蚊は細菌で保護された状態で生まれ、ウイルスの循環を抑制する。
モレイラ氏が率いるウォルビット・ド・ブラジル社はパラナ州クリチバ市に7月、ボルバキア細菌を体内に導入したネッタイシマカを生産する世界最大のバイオ工場を開設した。この施設は、オズワルド・クルス財団(Fiocruz)と提携するパラナ州分子生物学研究所(IBMP)と、世界蚊対策プログラム(WMP)との共同によって設立された。
目標は毎週8千万個以上の蚊の卵を生産し、国内各地に供給することだ。モレイラ氏によると、この取り組みは、感染症の伝播を抑制し、最終的には公衆衛生の向上に寄与することを目指す。
モレイラ氏は90年代、オーストラリアのモナシュ大学での勤務時代にこの研究を開始し、ボルバキア細菌が蚊の体内でどのように働くのかを調査。その成果を2009年に発表した。最初の研究結果は非常に好評を博し、その後の研究や試験でさらなる成果を上げていった。同氏は、単なるラボでの研究にとどまらず、この技術を実際の社会で実用化するために多くの困難を乗り越えた。
特に注目すべきは、モレイラ氏が自身の研究を商業化するためにFiocruzとWMPを巻き込んだ点であり、政府機関や意思決定者に対してこの技術の重要性を強調し、戦略的パートナーシップを築いたことだ。
連邦政府はすでに、この技術の導入を正式な公衆衛生政策として承認しており、最初に全域で導入したリオ州ニテロイ市は、デング熱の症例が89%も減少。現在16都市で展開され、その効果が実証されている。モレイラ氏はこれを「画期的な成果だ」とし、将来的にはこれら疾患を根絶することを目指している。
ウォルビット・ド・ブラジル社は現在75人のスタッフを擁する。モレイラ氏は「我々が取り組んでいるのは単なるビジネスではなく、公衆衛生の向上という大きな目標に向かっている」と述べ、全員が共通のビジョンと情熱を持って取り組んでいることを強調した。
ブラジルにおけるデング熱の根絶は長年の課題であり、気候変動の影響も受け、年々深刻な危機に直面している。今年だけでもすでに1700人以上がこの病気で死亡した。
モレイラ氏は、他国からの高額な供給要請を断ってまで国内の需要を優先させており、この判断は同氏が技術の社会的意義をどれほど重視しているかを示す。モレイラ氏とそのチームは、今後もこの技術を広め、世界的な感染症対策に寄与することを目指している。








