大統領の再選無制限に=ブケレ独裁化に懸念強まる

中米エルサルバドルの立法議会は7月31日、大統領の再選を無制限に許可する憲法改正案を承認した。この改正案は、ナジブ・ブケレ大統領(44歳)が創党したヌエバス・イデアス党の提案によるもので、大統領任期を5年から6年に延長し、第2回投票を廃止する内容も含まれている。これにより、2027年の大統領選での再選が可能となるが、野党議員は権力の永続化を懸念し、独裁的な危険性を指摘していると8月1日付フォーリャ紙など(1)(2)が報じた。
同日、議会での投票が行われ、圧倒的多数を誇るヌエバス・イデアス党の提案により、改正案は57票の賛成を得て可決された。一方、反対票は野党議員によるわずか3票にとどまった。
ブケレ氏は2019年に初めて大統領に就任。同国の憲法では大統領の再選が禁止されているにもかかわらず、同氏は2024年の選挙で再選を果たした。この際、憲法裁判所は、ブケレ大統領が指名した裁判官による多数派の判断を受け、「(憲法が)大統領が再選を目指すことを禁じることが人権侵害に当たる」とし、出馬を合法とする判決を下していた。
一方、反対派の議員は、改正案が「民主主義を危うくする」と強く批判。野党のマルセラ・ビラトロ下議は「今日、エルサルバドルの民主主義は死んだ」と述べ、現政権が権力を独占し、独裁体制を強化しようとしていると指摘した。同下議は、政府が野党や反対者に対して圧力を強め、自由な討論の場を奪っていると非難している。
ただし、国内ではブケレ氏の「ギャング撲滅戦争」によって治安が改善されたとする評価が多く、同氏の支持率は高いままだ。だがジャーナリストや人権活動家の中には、ブケレ政権の強硬姿勢に対して懸念を示す声も上がっており、特に政府に対する批判的な立場を取る非政府組織(NGO)やメディアが圧力を受けている状況は深刻だ。
最新の報告によると、同国内で25年間活動を続ける人権団体クリストサルは、警察による脅迫や嫌がらせを受けて、職員20人を国外退避させたという。同団体は、ブケレ氏の下で頻発する刑務所での死亡や拷問を告発していた。これにより、国内で反政府的な立場を取る組織がさらに弱体化することが懸念されている。現地のメディアも政府の圧力を受けて、報道の自由が制限される危険性が増しているとの指摘がある。
国外からの反応も注目されている。国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチのフアニタ・ゴエバルトゥス氏は、今回の改正案を「エルサルバドルはベネズエラと同じ道を歩んでいる」と非難し、人気を利用して権力を集中させる政治的手法が最終的に独裁体制に繋がるとの見解を示した。
ブケレ氏の支持率は依然として高いものの、報道機関や人権団体が行う調査では、国民の間で自由な意見表明に対する自己検閲の傾向が強まっていると指摘されている。アーカンソー中央大学(UCA)による調査では、エルサルバドルの57・9%の国民がブケレ氏を批判することに「恐怖を感じている」と回答している。
ブケレ大統領は〝新しい政治〟を強調するが、独裁的な権力集中を危惧する声が依然として根強い。この改正案が実際にどのように実施され、国内外の反応がどう変化していくのかが注視される。