ボリビアで暗号通貨の利用急増=インフレと通貨不信で資産防衛

深刻な経済危機に直面する南米ボリビアで、暗号通貨利用が急拡大中だ。インフレ率25%、ドル不足、制度不信を背景に、国民はデジタル資産を実用的な決済手段や資産保全の手段として活用し始めていると7日付ブルームバーグなど(1)(2)が報じた。
ボリビアでは24年に暗号通貨の使用禁止が解除されて以降、国内のデジタル決済が急増。25年上半期の暗号通貨取引総額は約3億ドルに達し、前年同期比で5倍超となった。首都ラパスの街中では暗号通貨でコーヒーや日用品を購入できる店が増え、地方の露店でもQRコード決済に対応する姿が見られるようになった。
急速な広がりの背景には、深刻な経済失速がある。同国は11年連続で財政赤字を計上し、対外債務は国内総生産(GDP)の1/4に達している。天然ガスなどの主要輸出産業の低迷により、外貨収入が激減し、国内では米ドルの現金不足が常態化。民間銀行ではドル引き出しに週100ドルの制限が設けられ、闇市場でのレートは公式の約2倍に上昇している。
一方、国内通貨ボリビアーノは為替が人為的に高止まりする中で購買力を失い、インフレ率は34年ぶりに25%を超えた。輸入依存の生活必需品は価格が高騰し、家計への打撃が拡大。この状況の中、法定通貨に代わる手段としてビットコインやステーブルコイン(価格が米ドルなどの法定通貨に連動する暗号資産)への関心が急速に高まっている。
ステーブルコイン「テザー(単位はUSDT)」は、その価値が米ドルと1対1で連動している点から特に支持されている。ラパス近郊に位置するエル・アルト国際空港では、一部の店が商品の価格をUSDT建てで表示し、外国人講師への給与をビットコインで支払う大学まで。国営石油会社が一時、国外支払いにステーブルコインを使用していた例も報告されている。
地場企業や外国系プラットフォームもこの流れに呼応。コロンビアの暗号資産ウォレットプロバイダ企業「Meru」は、ボリビア国内の利用者が前年比6600%増加したと発表。世界最大級の暗号通貨取引所である「バイナンス」も、手数料の低さに加え、初心者向けの教育リソースやサポート体制を武器に、ボリビア市場で急速に存在感を高めている。同社のアプリはスマートフォンを通じて簡単にUSDTの送金・受取ができる点が評価され、個人ユーザー間でも広がりを見せる。
ボリビアの決済インフラ企業「レッド・エンラセ」もPOS端末(会計や売上記録用の機器)やQRコードでのUSDT対応を進めている。
利用拡大の要因には、金融システムや政府への不信感もある。小規模なカフェでビットコインによる支払いを受け付けている店舗主は、「これは体制への抵抗であり、資産の価値を守る手段だ」と語る。制度に依存しない「自己主権的な通貨」として、若年層を中心に受け入れられている側面もある。
だが、暗号資産にもリスクはある。USDTを発行するテザー社は21年、準備資産に関する虚偽説明を行ったと訴えられ、米当局に4100万ドルの和解金を支払った。22年には、別のドル連動型ステーブルコイン「テラUSD」が市場の混乱により大暴落し、多くの保有者が損失を被った。ビットコインも価格の変動が激しく、資産保全の手段としては不安定な側面が残る。
それでもボリビアでは、暗号通貨が「仕方なく使う手段」から「現実的な選択肢」へと変わりつつある。政府は積極的な導入支援を行っていないが、禁止解除だけで民間普及が進んでいる。
17日には大統領選挙が予定されているが、専門家は「暗号通貨はすでに経済危機下の生活インフラとして根付き始めており、選挙結果に左右されずに拡大を続けるだろう」と指摘。ボリビアもまた、ベネズエラやアルゼンチンと同様、通貨不安が暗号資産を現実の経済手段に押し上げる構造を映し出している。