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ブラジルはなぜ成長できないのか?=専門家が構造的課題を分析

2025年8月22日

万華鏡1
2000年以降の実質国内総生産(GDP)成長率の年間平均を示す国別グラフ(19日付CNNブラジルの記事の一部)

 

 ブラジルは過去40年にわたって停滞を続け、他の新興国と比較して成長率で後れを取ってきた。財政赤字、教育の機能不全、生産性の低下、技術革新への無関心など、成長の足かせとなったこれらの構造的課題は短期的な景気対策では解消されない根の深さを持つ。19日付CNNブラジル(1)が、複数の経済専門家に取材し、なぜブラジルは持続的な経済成長を遂げられないのか、その本質に迫った。

 80年代以降、ブラジルは幾度かの好景気を経験したが、その後は成長鈍化の傾向が続いてきた。2000年以降の実質GDP成長率は約2・4%で、中国(8・2%)やインド(6・3%)を下回り、チリ(3・4%)、コロンビア(3・6%)、ペルー(4・1%)といった中南米隣国にも後れを取っている。

 成長鈍化の要因には教育の遅れ、貯蓄率の低迷、財政のひっ迫、生産性低下などが挙げられる。専門家は「特効薬はない」としつつ、構造改革の必要性を強調している。特に、財政の均衡確保が喫緊の課題だ。

 ジェトゥリオ・ヴァルガス財団ブラジル経済研究所(Ibre/FGV)のシルヴィア・マットス氏は、「ブラジル最大の課題は繰り返される財政危機で、それをどう抑制するかが鍵」と述べる。過去40年間にわたる政府の過剰支出と債務増大が経済成長の足かせで、財政不均衡は根強い問題として残る。

 元財相のエンリケ・メイレレス氏は「政府は義務的支出を減らせておらず、行政・税制・年金改革など抜本的な改革が必要」と指摘した。過剰支出と債務膨張は国内貯蓄率の低迷を招き、投資の主要源泉である生産的資本形成が妨げられ、金利の高止まりが成長を阻害している。

 ビジネススクールInsper元理事長のマルコス・リスボア氏は、他の新興国と比較して政府支出が非常に大きく、貯蓄率の低さが低成長の一因だと指摘した。

 ブラジルの産業化は30年〜80年代に進行。50年代後半からのクビチェック政権下では「目標計画」が推進され、資本財産業の拡充で経済は一時的に飛躍した。だが60年代後半にはインフレ加速で成長は鈍化。70年代には「経済の奇跡」と称される高度成長期も経験したが、この時期の過剰借入による債務問題が尾を引き、80年代は「失われた十年」に。

 FGVのマルシオ・オランジ氏は「70年代の経済成長は『呪われた遺産』とも言える過剰債務に基づいており、世界的な石油ショックや米国の金利上昇と相まってブラジル経済を苦しめた」と解説。結果としてインフレは制御不能になり、外債負担が増大、持続的成長は困難になった。

 技術革新や労働力の質向上への投資不足も課題だ。リスボア氏はブラジル産業が組立工場にとどまり、ハイテク分野への転換が遅れたと指摘し、韓国や中国のような成功事例と対比した。

 GDP比での教育投資は高いが、その成果は限定的だ。21年にはGDPの約5・5%を教育に費やし、カナダやドイツと同等の水準だが、国際的な学力テスト「PISA」では数学や科学、読解力で下位に甘んじている。中銀元総裁アルミニオ・フラガ氏は「教育者の地位向上や教育内容の改革がなされず、優秀な人材が教育現場に集まらない負の循環に陥っている」と指摘する。

 リスボア氏は「教育予算は過去30年間で大幅に増えたが、教育の内容や教授法の改革が遅れたままで成果が上がっていない」と述べた。この教育と技術の遅れは、労働市場の質的な向上を妨げ、経済成長の足を引っ張っている。マットス氏は「教育の遅れは短期的には解決困難で、質の高い人的資本の不足は新興国全体の共通課題だ」と指摘する。

 政治的不安も成長を妨げており、80年代以降の民主化期に、2度の大統領弾劾を含む政局不安や、立法と行政の対立が続いた。経済政策は断続的に変更され、中銀の独立性も揺らいだ。これらが経済の不確実性を高め、成長の妨げとなっている。

 メイレレス氏は「経済のインデックス化(物価や賃金が特定の指標に基づいて自動的に調整される仕組み)はインフレ抑制を困難にし、高金利を強いる」とし、財政政策と金融政策の協調が必要だと強調する。

 14年以降は慢性的な財政赤字が深刻化し、成長への制約が強まっている。Insperのマルコス・メンデス研究員は「赤字拡大が資金吸収を加速し、金利を押し上げている」と警鐘を鳴らす。

 専門家は多国間主義を推進し、政治的イデオロギーを超えた主要経済国との協調が不可欠と説くが、フラガ氏は「ブラジルは世界経済との連携を目指してきたが、メルコスルの枠組みに縛られ、進展は乏しい」と結んだ。


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