サトウキビが動かす未来=エタノールから水素生成も視野に

脱炭素化が国際議題となる前から、ブラジルは再生可能エネルギーへの移行を実践してきた。その中心にあるのがサトウキビ由来のバイオエタノールだ。70年代の石油危機を機に国家戦略として導入され、官民連携により生産体制と市場が発展。現在、バイオ燃料はブラジルのエネルギー構成の約3割を占めている。19日付CNNブラジル(1)が、ブラジルにおけるエネルギー転換の歴史を解説した。
ブラジルにおけるエタノールの利用は、1931年にヴァルガス暫定政権下でガソリンへの5%混合を定めた政令に始まり、70年代の石油危機を機に本格化した。75年には国家アルコール計画「プロアルコール」が発足。以後、政府と民間による長期的な投資が続き、今日では世界でも類を見ない規模のバイオ燃料生産体制が確立されている。
バイオ燃料の中核を担うのがサトウキビ由来のエタノールで、24年時点でブラジル最大の再生可能エネルギー源だ。近年では、トウモロコシを原料としたエタノール生産も拡大しており、同年には全体の2割を占めた。
この供給体制の下、ブラジル内を走行する全ての軽車両において、エタノールは不可欠な燃料となっている。通常のガソリンにも30%の無水エタノールが混合されており、排出削減の観点からもその役割は極めて大きい。温室効果ガスの排出量は、ガソリンと比較して最大90%削減可能とされている。
産業界の取り組みも加速している。03年にはフレックス燃料エンジンを搭載した車両が登場し、消費者の選択肢が拡大した。ステランティスは1979年に南米市場で初めてエタノールエンジン搭載車を投入し、現在はエタノールと電動化を組み合わせた「バイオ・ハイブリッド」車を展開している。
政策面では、24年に「未来の燃料法」が成立し、ガソリンへのエタノール混合比率は30%に引き上げられた。政府はグリーンモビリティ推進のための支援策「緑のモビリティと革新(Mover)プログラム」も展開しており、脱炭素化と技術競争力強化を両立させる構えだ。
こうした官民の取り組みの結果、ブラジルには3千万台超のフレックス車が存在し、全国に張り巡らされた供給網が安定した燃料供給を支えている。バイオ燃料はもはや代替エネルギーではなく、主力の一角を占めるに至っている。
トヨタは13年にブラジルで初となるハイブリッド車「プリウス」を投入し、19年には「カローラ」のハイブリッドフレックス・タイプを発売。21年には「カローラクロス」も追加し、同国における電動化とエタノール利用の両立を牽引している。
トヨタはサンパウロ総合大学(USP)と連携し、エタノールから水素を生成するコンバーターの開発プロジェクトに参加。同社の燃料電池自動車「ミライ」が試験用に貸し出された。これはブラジルに広く普及する既存の燃料スタンドのインフラを活用し、水素燃料供給の効率化を図る試みであり、現在は試験段階で変換コストやスケールアップの検証が進められている。

ブラジルが築いたエタノール基盤は、単なるエネルギー戦略を超え、気候変動対策、産業政策、国際競争力のすべてに結びつく構造的優位性をもたらしている。他国が再生可能エネルギーの実用化に模索を続ける中、ブラジルはすでに実行段階にある。その供給体制と産業基盤は、再生可能エネルギー分野における即応性と実効性を備えたモデルとして国際的な注目を集めつつある。