神秘の歌姫Ado世界ツアー=サンパウロに〝火花〟散らす

謎に包まれた日本の歌姫、Ado(アド)が世界規模の注目を集める「HIBANA World Tour」の一環として13日、サンパウロ市バラ・フンダ区のエスパッソ・ウニメジで初来伯公演を行い、数千人のファンがAdoの魅力に酔いしれた。この公演は、アニメ文化に強い影響力を持つクランチロールが後援し、洋の東西を超えて注目を集めた世界ツアーの一部だ。
「Hibana(火花)」と名づけられた本ツアーは4月26日にさいたまスーパーアリーナで始まり、世界約34都市を巡って今週末24日のハワイ・ホノルルが千秋楽。そのラストスパートであるサンパウロ市会場でも完売となる大成功を収めた。総勢50万人を動員し、日本人アーティストとしては最大規模の世界ツアーだ。
ライブチケットの値段はサンパウロ市会場のアリーナ前方席840レアル(2万2800円相当)、VIP席930レアル、一般席360レアル。ブラジルで公演を行う欧米の著名アーティストとほぼ同等の値段だ。
hedfowサイトのギリェルメ・ゴエスさんの21日付コラム(https://hedflow.com/2025/08/17/Ado-traz-espetaculo-multimidia-a-sao-paulo-e-entrega-show-inesquecivel/)などが報じた。
Adoは、登場時からその神秘性を貫いた。観客には写真・映像撮影の禁止、違反者は退場処分となる厳格なルールが伝えられ、舞台上ではLEDライトに囲まれた〝鳥かご〟の中でただシルエットだけが浮かび上がる演出が展開された。
代表曲「うっせぇわ」などから始まり、「Lucky Bruto」「ギラギラ」「クラクラ」「愛して愛して愛して」続く。バンドの充実したサウンドに支えられたAdoの声は、叙情から激情まで自在に行き交い、ステージ空間を圧倒的なエネルギーで満たした。また、舞台装置と相まって、観客は視覚と聴覚が同時に刺激されるマルチメディアな没入体験を味わったと評価が高い。
公演終盤ではAdoが観客に語りかけ、日本語に加え英語やポルトガル語を織り交ぜながらブラジルでの体験や感想を語り、観客との距離を一歩縮めた。顔を出さず、姿ではなく「表現」と「歌」だけで観客を惹きつける――その姿勢がAdoの強烈な個性であり、アートとしての音楽の在り方を再提示する舞台となった。
ポップカルチャー専門サイト「オムレッチ」14日付コラム(www.omelete.com.br/musica/ado-show-brasil-hibana)で、ブレノ・デオリンドさんは、以下のようなコンサート評を投稿した。
《最後の楽曲「Neon Genesis」を前に、Adoは再び観客に語りかけた。今度はより率直に、自身の不安や迷いを吐露するような言葉だった。その姿から浮かび上がるのは、彼女が顔を隠す理由が「街中で気づかれずに歩くため」という単純なものではなく、むしろ「外見による先入観や評価を取り払うため」である、という明確な意思である。
(中略)Adoが生み出したのは、余計な要素を排除し、純粋に音楽に向き合うための空間であった。しかし私たちは、記録する行為そのものにとらわれ、目の前の体験に没頭する準備ができていない場合もある。(中略)
Ado自身は理解しているのだろう。外見こそがもっとも内面的なものではない、と。むしろ彼女の声や歌詞の方が、心の奥深くを覗かせる。そう気づいた観客にとって、記録よりも「いまこの瞬間」が重要であることを知る体験となったに違いない。そしてその体験こそが、次に彼女の歌声を聴くときを心待ちにさせるのである》と分析。「顔を隠すことで、より素顔に近づく」というのがAdoの選択だと論じた。