《記者コラム》印刷版の発行日数を減らす決断=読者の皆さまの寛大なご理解を

経費削減の努力の末の決断
たとえ小さな発行部数しか持たない邦字紙であっても、新聞は時代の証言者であり、社会を映す鏡でもあります。私たちが日々の発行を通じて大切にしてきたのは、単なるニュースの配信ではなく、コミュニティに寄り添い、歴史を記録し、未来へつなぐ営みです。
創刊以来、数え切れないほどの出来事を見つめ、伝え、皆さまと共有してきました。そこには常に、読者の支えがありました。
しかし、新聞を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。読者の減少、広告収入の縮小、高インフレによる印刷や流通にかかる経費の高騰。これはブラジルに限らず、世界中の新聞が直面している現実です。
かつては家庭に一紙、あるいは複数紙が届いていた時代もありましたが、今はスマートフォン一つで瞬時に世界中のニュースを知ることができます。便利さの裏側で、紙の新聞を選ぶ人の数は確実に減ってきています。
私たちもできる限りの努力を重ねてきました。編集作業の効率化、印刷コストの削減、デジタル化の推進。無駄を省き、限られた資源をどう活かすか、毎日のように頭をひねってきました。その過程で、時には紙面の構成を見直し、時には人員体制を縮小しながらも、なんとか「週5回刊行」という形を守ってきました。
しかし今、正直に申し上げなければなりません。もはや削れるところは削り尽くしました。経費削減の余地は残されていません。残る選択肢は、発行の頻度そのものを見直すことです。
週5回40頁から週3回32頁へ
そこで私たちは、現在の購読料のまま、この9月22日から、週5回の印刷版刊行を週3回へと減らす決断をしました。ただし、火曜日付は8頁のままですが、木曜日付と土曜日付は12ページという具合に、できるだけページ数自体は減らさない工夫をします。
具体的には、印刷版のページ数が8頁を週5回(計40頁)から、週3回(計32頁)に減ることになります。すでにNHK国際放送をご覧の読者にとっては、中面の記事はすでに知っている内容が多かったでしょうから、その部分が減るイメージです。
1面のブラジル社会面、2面の日系社会面、読者の声、俳句・短歌、百年の水流などのオリジナル記事はそのままです。ただし、水、金の配達がなくなる分、1日遅れで次の日の紙面の中に組み込まれる形になります。
読者の皆さまにとっては大きな変化であり、ご不便をおかけすることになると思います。しかし、これは新聞の存続そのものを守るために必要な一歩です。新聞を毎日手に取る習慣があった方には、きっと物足りなさや寂しさを感じられることでしょう。
「なぜもっと踏ん張れないのか」「なぜ続けられないのか」との声もあるかもしれません。そのお気持ちは、私たち自身も痛いほど理解しています。私たちにとっても、日々の発行を減らすことは決して本意ではありません。むしろ、断腸の思いで下した決断なのです。
けれども、ここで現実から目を背けるわけにはいきません。無理をして従来の刊行体制を維持すれば、近い将来、紙そのものを断念せざるを得なくなるでしょう。それは「縮小」ではなく「終止符」になってしまうのです。私たちは今まで、邦字紙が突然廃刊するという悲しい実例を何回も見てきました。
私たちが望むのは、あくまで「続けること」。たとえ週3回であっても、紙面を通じて読者とつながり続けることに価値があると信じています。
PDF版とWeb版は現状でほぼ継続
ですが、印刷代・配達代がかからないPDF版、サイトからテキスト記事で読めるWeb版は毎日配信を維持する意向です。ただし、PDF版は火曜日8頁、水曜日4頁、木曜8頁、金曜4頁、土曜8頁という具合に、若干ページ数が減ります。
同時に、1面のブラジル社会面関係の記事は今まで通り、サイトでは毎日更新されるので、Web版購読者にとってはほぼ変化がない状態です。印刷版の読者の皆さんにはこれを機に、セルラーやパソコンを使う方であれば、印刷版のほかにWeb版もお申込みいただき、併読していただくことを切にお願いします。
ポルトガル語記事とバイリンガルSNS発信
デジタル媒体との連携もさらに強化していきます。紙面を作る作業が減った分の人手を、動画制作などにあてバイリンガルなSNSや動画での発信に比重を置きます。
たとえば、15日に本紙インスタグラムに投稿した、日本のアーチスト玉城ちはるの動画(https://www.instagram.com/reel/DNZNe3qttJY/)は25日14時時点で52万回再生を超えました。それだけの人に影響力を持つバイリンガル・メディアが育ちつつあります。
と同時に新サイトでは、日系社会記事のポルトガル語翻訳記事の掲載も始めました。今までは日本語記事だけで届かなかった日系人・ブラジル人に対して、現在では本紙から直接に伝えられるようになっています。

ポルトガル語記事とバイリンガルSNS発信を駆使することにより、今まで以上に活躍の場が広がってきています。ウェブやSNSを通じた即時性・臨場感のある発信に加え、紙面ではその流れを整理・分析してお届けするよう役割分担を強めます。そうすることで「日々の即時性」と「紙の持つ重み」を両立させたいと考えています。
現在、PDF版やWeb版の購読者の中で、駐在員や日本在住者の比率が高まってきています。ブラジルや南米の今を伝えることは、日本とブラジルを近づけることであり、たかが邦字紙といえど、デジタル媒体にも片足を突っ込んでいる以上、その役割がますます重要な時代になってきたといえます。
だから、幣紙サイトには【市況・速報】など、Web版読者しか読めないブラジル時間夕方の最新記事もあります。日本のビジネス関係者、金融関係者なども日々チェックしてくれており、その比重が高まっているからです。世界がグローバル化される中で、数少ないブラジル専門紙でもある本紙は、BRICS情報、中国の南米進出状況などを知るには欠くことのできない役割を背負いつつあると自覚しています。
形を変えながら新しい段階へ
新聞は、単なる商品ではありません。読者と記者が共に作り上げる「公共財」だと私たちは信じています。紙面に掲載された記事は、社会の記録であり、未来の世代にとっての歴史の証言です。だからこそ、たとえ印刷版の発行日数が減ろうとも、その意義が失われることはありません。
単なるニュースの羅列ではなく、背景や意味を掘り下げる紙面づくりを心がけます。速報性ではインターネットに及ばないかもしれません。しかし、新聞だからこそできる「文脈を示すこと」「事実を積み重ねて歴史を残すこと」があります。私たちはそこに全力を注ぎます。
どうか、この変化をご理解ください。そして、これからも私たちの歩みに力を貸してください。読者の存在なくして新聞は成り立ちません。日々手に取ってくださる方、購読を続けてくださる方、応援の言葉を寄せてくださる方、その一人ひとりが私たちの新聞発行の支えです。
「印刷版が週3回になっても読み続けたい」と思っていただけるような紙面をお届けすること。それが私たちの新しい挑戦です。これまでのご愛読に心から感謝申し上げるとともに、今後も変わらぬご支援をお願い申し上げます。
新聞はまだ終わりません。むしろ、形を変えながら新しい段階へと進んでいきます。私たちはこれからも、読者とともに歩み続けます。(深)