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ぶらじる俳壇=156=広瀬芳山撰

2025年10月7日

マナウス 丸岡すみ子

ゴムの木やすじ刻まれて街興す

〔まさにアマゾンやマナウスの話ですね。ゴムの木が栽培されて町がどんどん発展していったということを素直に詠んで、歴史観あふれる句になりました。アマゾンらしい句です。〕

ゴムの樹や樹液集めの人の悲話

美声なるサビア意外に地味ななり

マナウス 森 浩美

かげろひてポニーテールの恋心

〔陽炎がたつ景色の中に少女の乙女心をポニーテールとつかんで描いています。陽炎がその燃え立つような恋心をうまく描写しています。〕

ゆっくりと走る列車や陽炎ひて

早朝の白き涙かゴムの樹や

マナウス 橋本美代子

河陽炎踊り出てきたジェット船

〔大河らしい情景の中に陽炎を突き破るように飛び出してきた船。躍動感あふれる大きな句ですね。〕

陽炎やライ病棟のありし跡

合掌ののちのかまきり鎌かざす

マナウス 朝倉晴美

見送りは陽炎の中いつまでも

〔陽炎という自然の中、見送る人も見送られる人も、ずっといつまでも心を残す、まさに心に刺さる句となりました。〕

ゴムの樹の庭一杯に帰国の日

あの子きっとサビア聴いてる男の子

マナウス 相澤寛明

玄関にゴムの樹一つ客迎え

〔きっと立派な瑞々しいゴムの樹がいつも主人の気持のように快くお客様を迎えているのでしょう。まさにアマゾンらしい句です。〕

ゴムの樹が潤しアマゾン今昔

残月の薄れし空にサビア鳴く

マナウス 渋谷 雅

州道の坂を上ればゴム農園

〔何気ない道を何気なく上っていけば、そこはアマゾン特有のゴム農園が広がっている。感情や感想をなるべく出さずに淡々と風景を描写しました。かえって風景に心が寄せられます。〕

陽炎えて二重に見えるネグロ橋

早朝にメロディ奏でる朝サビア

マナウス 錦戸みどり

蟷螂よ両手を合わせ狩りをする

〔蟷螂が両手を合わせながら狩りをする姿を、まるで神に赦しを乞うような姿としてとらえました。少し滑稽味があり写生もしっかりしています。〕

陽炎よ地平線上ゆらゆらと

アマゾンの豊富な時代ゴムの樹や

マナウス 松田正一

穏やかにゴムの樹盆栽一念の老

〔ゴムの木を何とかして盆栽にしようとした一人の老人の行動を、穏やかにと表現しました。ゴムの樹も盆栽もすべてその一言につきると思います。〕

アマゾンに国鳥サビア華麗に舞ふ

陽炎でイベント幕開け胸を打つ

マナウス 宿利嵐舟

五、六台ゴムの木陰にベビーカー

〔子ども連れの何かのイベントがあったのでしょう。それがゴムの木蔭というアマゾンらしい風景に描くことでさらにのんびりとした熱帯の風景が伝わってきます。〕

野路行けばサビアの美声左右

ピカドンに似た雲湧ける原爆忌

マナウス 内ケ崎留知亜

ゴムの樹や蝋燭揺らぐ闇夜かな

〔おそらく庭にあるゴムの樹でしょうか。それが風に揺られ、置いてある蝋燭も揺らいでいる。まさに夜の闇がもっと深く感じられる時です。〕

声高くおしゃべり弾むサビアかな

ベランダに仁王立ちかな蟷螂や

マナウス 來島愛夏

陽炎の脳裏によぎる思い出かな

〔元の句は古い思い出とありましたが、古いと、思い出は少し重なるので、少し直しました。〕

ゴムの木や目を光らせる日本人

大空や響き渡るサビアの声

マナウス 野沢須賀子

カマキリに我が菜畑切られおり

〔ある朝、畑に出たところ、野菜の葉っぱがいろいろ切られている。アマゾンではカマキリが害虫として描かれている句が時々見られます。でも切られた本人から見ればきっとびっくりしたでしょう。悔しさと驚きの感じがよく出ています。〕

陽炎える揺れて芝打つゴルフ場

街路樹もここは棲みかよサビア鳴く


読者文芸


◆あらくさ短歌会(8月)

耳遠く世間話に入れずに仲間はずれて短歌詠む我 篤常重

変わりゆく世のあり方に悩みつつ生きねばならぬ病む夫と居て 吉田五登恵

残しても邪魔と知りつつ捨てられぬ想い出残る写真の数々 楠岡慶憲

ふるさとの凍れる寒さにおよばぬが久々のマフラー懐かしき朝 安中攻

日本からフランスからも友迎えみんなの顔も声も華やぐ 橋本孝子

朝市に青首大根瑞々し故郷の冬のおでん思い出ず 金谷はるみ

此処かしらあそこかしらとさがし物もどかしきまま見当たらぬまま 矢野由美子

午後三時雲が垂れ込め霧雨の街はかすんでぼんやり見える 水澤正年

寒き日は熱いお風呂にゆったりと身体も心も安らぎうれし 足立富士子

狭き庭ゆっくり走れば餌ねだる幸せそうな番いの小鳥 伊藤智恵

生きの身の戸惑い多き我の日々緋鯉は無心に池めぐりおり 梅崎嘉明

日を浴びてゲートボールでビタミンをいただきながら元気に進む 足立有基


◆ブラジリア俳句会 9月

雨蛙鳴くを待つ日々雨遠し 山根敦枝

春深し今日も無事にと祈る朝 渡辺隆夫

だんだんと緑濃くなり春深し 長谷部蜻蛉子

久しぶり友の電話は春の風邪 田中勝子

あなどりてしっぺ返しや春の風邪 荒木皐月


◆くろしお句会(9月)

身の丈の余生楽しむ春の午後 須賀吐句志

紫のすみれ好みし母偲ぶ 石井かず枝

春の空どこかで戦争ありにけり 井上人栄

すみれ草句集の名にと思ひたり 浅海喜世子

朝寝して里にゆつたり抱かれたる 三宅昭子

移民等の心の糧や桜咲く 林とみ代

あるやなしかがりび草の香りかな 串間いつえ

手に馴染む鍬の柄長し春の耕 山畑嵩

すみれ咲く楚々たる姿静かなり 山畑泰子

ゆきずりの人のやさしさ春の空 大槻京子

春の朝足どり軽く散歩道 建本芳枝

離農して月日は速し豆の花 馬場園かね

我が庭に小さく咲いて藤の花 那須千草

想ひ出の垣根の隅にすみれ咲く 上村光代

春夕べすべて受け入れ老いるなり 太田映子

春の空今年こそはと挑戦す 大野宏江

ブラジルが発祥の季語念腹忌 山岡秋雄

試歩の道土手のすみれに妣想ふ 富岡絹子

朝寝して咎める人なき独居かな 伊藤きみ子

行き交わす人の微笑み小春かな 後藤たけし


◆熟年クラブ俳句教室(9月)

踝に心地良き風夏近し 森川玲子

さくら色に染めておむすび花筵 森川玲子

水温む手水の水の心地よさ 伊藤きみ子

春風にフレアスカート輪を描き 伊藤きみ子

目覚めたる前に鳴き出すサビアかな 蔵所和弘

春風が厚着のお洒落邪魔をする 蔵所和弘

旅の宿そろいのゆかた夏近し 大野宏江

夏近し世界平和と口ばかし 大野宏江

春風がまた来年と去ってゆく 皆藤百代

土から顔出して草の芽春を呼ぶ 皆藤百代

庭に咲く淡い若草雨上がり 楳津朝代

木の枝で歌う小鳥はサビアかな 楳津朝代

春風や優しく髪をなでてゆく 松田とし子

ブランコに揺られて歌うわらべ歌 松田とし子

サビア鳴く今日もよき事ある予感 中原イベッテ

ブランコがぽつり淋しく子等を待つ 中原イベッテ

春の海遥かに見える島の影 けいこ

思い出の桜並木や二人坂 けいこ

はるかぜや裾なびかせて試歩の杖 吉田しのぶ

鍬疲れいやす昼餉の畑サビア 吉田しのぶ


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