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芸術フットボールを追い求めて=沢田啓明=第13回=日本がブラジルに歴史的勝利

2025年10月18日

日本対ブラジルの親善試合で、ブラジル代表が日本に逆転負けを喫した(Foto: Rafael Ribeiro/CBF)
日本対ブラジルの親善試合で、ブラジル代表が日本に逆転負けを喫した(Foto: Rafael Ribeiro/CBF)

長年、サンパウロに住んでブラジルのフットボールを追い続け、その一方で祖国日本のフットボールの発展を願ってきた者として、「ついにこの日が来た!」という感慨を覚えずにはいられなかった。

14日、日本代表がセレソン(ブラジル代表)と東京で対戦した。過去、13戦して2分11敗(得点5、失点35)。これは、クラブであれば「ディビジョンが2つか3つ下」、「対戦するのがおこがましい」というほどの差だ。

ワールドカップ(W杯)では2006年ドイツ大会のグループステージ(GS)で対戦し、1-4の大敗を喫している。(この試合は、筆者も現地で観戦した)。

今月10日、ブラジルはソウルで、日本の長年のライバル韓国と対戦。ロドリゴ(レアル・マドリー)、18歳エステヴァン(チェルシー)らが躍動し、5ゴールを叩き込んで大勝した。

同じ日、日本は東京で南米の中堅国パラグアイと対戦し、二度に渡ってリードを許す苦しい展開。後半アディショナル・タイムに上田綺世(フェイエノールト)が頭で決め、辛うじて引き分けた。

ブラジル戦の前半、日本の守備陣はブラジル選手の流れるようなパスワークとスペースを突く鋭い動きに対応できず、2失点。「韓国に続いて日本もボコボコにされるのか」と思われた。

ところが、後半、日本は高い位置から激しいプレスを敢行して主導権を握り、ブラジル守備陣のミスもあって1点を返す。これでセレソンが意気消沈し、組織的なプレーが影を潜めた。日本は19分間に3ゴールを叩き込み、3-2の大逆転勝ちを収めた。

セレソンが2点差を引っ繰り返されたのは、1940年のウルグアイ戦以来、85年ぶり二度目のことだった。

ブラジルに住む日本人であれば、この国の人々が喜怒哀楽が激しく、一度、歯車が狂うとパニックになったりしてなかなか気持ちを立て直せないことを肌で知っている。2014年のブラジル開催W杯準決勝ドイツ戦(1-7で大敗)もそうだったが、これが日本戦で起きたのだ(ブラジルメディアは、「停電が起きた」と表現した)。

今回の極東遠征に、セレソンはレギュラー3人が故障のため参加しておらず、しかも4日前の韓国戦で現時点におけるベストメンバーを起用していた。日本戦は大きくメンバーを入れ替えており、レギュラーは3人しかいなかった。

セレソンの控え選手といえども、大半が欧州ビッグクラブでプレーしており、能力は高い。ただし、これだけメンバーを入れ替えると、連携の問題が出てくる。また、控え選手はW杯出場がかかっているから、是が非でも自分をアピールしたい。このため、組織的なプレーが影を潜めかねない。

もちろん、百戦錬磨のカルロ・アンチェロッティ監督はこういうことは百も承知だ。その上で、「多くの選手を試しながら、勝利も目指す」という二兎を追ったのだが、二匹目の兎は取り逃がした。

とはいえ、日本も最終ラインのレギュラークラスの選手が5人故障しており、ボランチの遠藤航(リバプール)、攻撃の切り札の三笘薫(ブライトン)も欠場。ベストメンバーではなかった。

近年の日本代表について、驚くべきデータがある。2022年11月以降、サムライ・ブルーは元世界王者と5度対戦し、4勝1分け。一度も負けていない(内訳はドイツに2勝、スペインとブラジルに1勝ずつ、ウルグアイと1分)。

フットボールの世界では、一度でもW杯で優勝したことがある国は尊敬の眼差しを向けられる。日本はまだ世界の頂点には立っていないが、世界の頂点に立ったことがある国とこんな対戦成績を残しているのだ。日本のフットボールが急速に成長している何よりの証拠だろう。

日本のメディアとファンは、超大国ブラジル相手の大逆転勝利、14戦目にしての待望の初勝利に狂喜している。

もしこれがW杯決勝なら、手離しで喜んでいい。ただし、これはW杯を8カ月先に控えた時点での強化試合であり、なおかつ日本のホームゲーム。そして、ベストのブラジルではなかった。

日本代表の森保一監督と選手たちはこういう事情は良くわかっており、大喜びしながらも冷静さを失っていなかった。

パラグアイとブラジルに1勝1分は上出来だが、2試合とも2失点したのは反省材料だ。

彼らは「W杯優勝」という壮大な夢を掲げており、この目標から逆算して、W杯まで地道な努力を積み重ねるはずだ。

一方、セレソンはチームマネジメントに失敗した監督とミスをした選手が国内メディアから痛烈な批判を浴びている(大きなミスを犯したCB(センターバック)は、試合後、涙を流しながらブラジル国民に謝罪した)。

しかし、今はまだ選手を試していい時期だ。極東遠征は1勝1敗に終わったが、大きなダメージを受けたとは思わない。

来月、欧州でアフリカ勢(セネガル、チュニジア)と強化試合を行なう。この2試合でも現時点のAチームとBチームを併用し、来年に入ってからW杯に出場するメンバーの選定と連携向上に着手すると予想している。

ともあれ、来年6月11日に開幕するW杯がますます楽しみになってきた。


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