マイゾウ・メーノス(まあーまあー)の世界ブラジル(39)=サンパウロ 梅津久
第31話―刑務所は楽園
法律の世界でいえば極端なのが刑務所の中での囚人の扱い。ここにも「マイゾウ・メーノス」の世界があり、金で扱いが変わってしまう。金があれば、テレビ、ステレオ、冷蔵庫などを持ち込み、優雅な刑務所生活をしている囚人がいる。拳銃や麻薬まで手に入れている囚人もいる。面会に訪れた女性が性器内に携帯電話や薬物を忍ばせ、持ち込もうとしたというニュースも頻繁に報道されている。
リオ・デ・ジャネイロでは刑務所内に豪華なベッド、バス付寝室、大型TV、ステレオ付きの囚人の部屋が発見され、全国ニュースで大騒ぎとなり、即刻解体された。いったいどうやって改築したのか想像を絶する。
さらに刑務所内に事務所を設けて携帯電話で麻薬組織を操っている者までいる。刑務所内には犯罪組織のグループが出来ており、囚人はグループに入り護身料を払って命を守ってもらっている。
いずれかのグループに属さないと拷問、性的暴力を受け、何時殺されるかわからないことになるという。どこが治安国家なのかわかったものでない。
最近では女性刑務所でケーキを配り、薬物を回し飲みして誕生日を祝っている様子が囚人の携帯電話からビデオで外部に流されたニュースが報じられた。
刑務所所員を買収して刑務所を出てしまう者までいる。権力までが金銭で自由に売買されているのではないだろうか。
ブラジルでは囚人が近親者(奥さん、旦那、恋人)の訪問を受け、刑務所内でひと時を過ごすことが出来るようになっている。
あるニュースを見て驚いた。刑務所内で囚人が心臓麻痺で死亡、原因はバイアグラの飲みすぎ。その部屋には17歳の少女がいたという。明らかに近親者ではなくお金で買われた少女である。
これで一時期刑務所への訪問が厳しくなったが、「マイゾウ・メーノス」の世界。また元に戻ってしまうと思われる。日本であれば面会時、ガラスの仕切り越しに指を触れることしか出来ないのだが。
刑務所は箱詰め状態で、立って寝ることしか出来ないような状態と言われることもある。
一方で、カトリックの慈悲の精神のため、一時出獄制度がある。感謝祭の日、母の日、父の日、子供の日、死者の日(日本のお盆に当たる)やクリスマスなどの祝日に家族と一緒に祝うために、逃亡の危険のない囚人は年5回に限って7日間、年に35日間、一時出所ができる。
出所の際は電子足環を付けられるが、戻ってこない囚人が10人に2人はいて、再度犯罪を犯すという大きな問題がある。2015年には年約4万9487名が一時出所し、約5%の2305人が戻らず逃走しており、毎回5%から7%の囚人が戻らない。それでもこの恩赦は実施されている、これがカトリック精神なのか。
また上級教育を受けた囚人(大学教育を受けた人)は罪が確定するまでベッドとトイレ付の独房に入ることが出来る。昔の特権階級の優遇制度の名残か。
さらに。ブラジルには懲役援助制度があり、囚人の扶養家族は囚人が得ていた所得額平均の最高80%まで毎月受け取れる。その金額は1200ヘアルから4500ヘアル(約4万2千円から15万7500円)と言われており、一般社会で汗水たらして働くより大金取りになる。(現在は連邦最低給与額、2021年現在1・160レアル=約4万円となっている)。
被害者に対しては何の援助もないのに、犯罪者(加害者)にはこんな優遇制度があるから囚人は刑務所から出所しようとはしないし、無職でいるより逆に罪を犯して刑務所に入ったほうが家族は助かるのかも。
そのため面会日の日には早朝から刑務所の入り口は長蛇の列となり、ほとんどの女性は大きな買い物袋や、挙句の果てはスーパーの買い物カートに食料を詰め込んで面会を待っている。生鮮食品や生肉まで入れて待っている姿がTVの映像に映りだされる、どうやって刑務所の中で食べたり売ったりするのか。
これもカトリック教の慈悲の精神に基づく、ブラジルの「マイゾウ・メーノス」の世界の一面である。



