熊の願い=サンマテウス=松本正雄
近頃、日本のテレビニュースで北海道から東北各県で熊が部落に現れ、民家に侵入食糧を盗み食いしているようで、人間も襲い怪我をさせているとか。
熊は危険な動物だから駆除せよと、市長命令で猟友会の皆さんが猟銃を持って追いかけている。
熊たちが何で民家に現れ、食べ物を盗んだり、畑の作物(ブドウやリンゴ)等、盗むのか猟友会の皆さん良くご存じのようです。
猟友会を代表して、会長さんがインタビューしておりました。
今年は、栗等山の果物が不作で熊の食糧が不足している。
熊は冬眠するので、秋の間に充分な体脂肪を蓄えておかないと冬は越せない。
だから、山から下りて来て農作物を荒したり、民家に侵入したり、食糧を盗むのだと会長さん、熊の立場を理解しておられます。
私が本物の熊を見たのは日本旅行に行った時、北海道の登別温泉でクマ牧場での曲芸を見た時だけ。
熊と話し合った事はございませんが、器用でヤンチャなかわいい動物だと思った。
熊一族は、先祖代々長年日本に住みながら、日本語を話すことも書くことも出来ません。
人間があまりにも悪者扱いするので、熊の気持ちを私に代弁代筆させて下さい。
我々熊族は、何も人間が憎くて襲ったり、何も好き好んで人様の家に押し入り食糧を奪っているわけでもありません。
山の上から見ておりますと、年老いた夫婦が一生懸命に作物を育てている、本当にご苦労様です。
汗の結晶である作物を盗みたくありませんが、今年は我々にも事情があり(やむなく)悪いと知りつつ、盗んでいる次第です。
猟友会の会長さんのおっしゃる通り、今年は山の幸が予想以上に不作で食べ物が不足しています。
又、去年の豊作で家族も増えました。
雪国にお住まいの皆様には、良くご存じの事とは思いますが、大量の食糧を準備しなければなりません。
今は昔と異なって、真冬でもスーパーやコンビニで買えるので、昔のような苦労はありません。しかし、我々熊族は先祖代々から山の自然の恵みだけを頼って生きております。
冬はひたすら、寝て暮らす習わしです。
春がくるまで生き延びる為には、最低限のエネルギーを保持しなければなりません。
雪の降る前に、充分な体脂肪を蓄えなければなりません。
山に食べ物が少ない今年は、やむなく里へ下りて皆様の大切な食糧を盗む事になりました。
空腹で泣く子を見れば、悪いと知りつつ危険も返り見ず、盗みをくり返しております。
皆さんは、我々を恐ろしい動物だと思っているようですが、我々よりもっと恐ろしい動物が皆さんの近くに住んでおります。
山の上から人間社会を見ていますと、人間は我々よりもっと悪い、我々は生きるために食糧を盗んでいますが、あなた方人間は遊ぶがためとか、博打のためにとかで善良な人を騙して金を取ったり、ちょっとの事で殺して川に捨てたり、森に埋めたり、誰でも良いから殺して見たかったとか、万物の霊長とも思えない動物以下の生き物もおりますよね。
我々が人間を襲うのは、自己防衛のための先制攻撃です。
見つかれば殺されるかもといつもびくびくしております。
食べ物さえあれば、危険を冒してまで里へは下りたくありません。
そこで、提案があります。
スーパーやコンビニ、あるいは農協等で果物や野菜類等の残り物がありましたら、我々に恵んで下さい。
お互いに共存共栄で、末永くお付き合いしたいものです。
宜しくお願いします。
松本さん、我々の代弁、代筆ありがとうございます。
熊族一同。
「万年も共に暮らした仲だもの、慈悲の心で助けてあげて」正雄


