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ブラジル日系社会=『百年の水流』(再改定版)=外山脩=(350)

2026年2月28日


 コチアの財務の実態は、組合内部でも一九八九年の半ば過ぎまでは、専務の小川と財務部門の幹部職員以外は、誰も知らずにいた。会長のゼルヴァジオですら、後に身近な人に、

 「小川さんは、ワシが財務のことを訊いても、会長がそんなことまで心配する必要はない、と詳しいことを教えてくれなかった」

 と、ボヤいていたという。

 組合員に至っては、全くの聾桟敷であった。

 

 お家騒動へ脱線

 

 しかし、その戦慄すべき実態が、内部的には遂に漏れる時がきた。八九年の八、九月のことである。ある運営審議役(二世)が、数年後、こう語っている。

 「最初に監事会が、財務がとんでもないことになっていることを知った…」

 多分、財務部門の幹部職員の窮しての告白によるものであったろう。

 この時、監事会は、緊急に運営審議会と執行理事会を招集、総てを明らかにさせ、抜本的対策を立てさせ、臨時総会を開催、報告させるべきであった。それが任務である。

 ところが、そうはしなかったのである。何故か? 

 右の審議役は、こう答える。

 「日本人には、そういうところがあるでしょう、事を荒立てて、大先輩の二人を傷つけまいとする…そういうところが…。二人は偉すぎたし…」 

 二人とは、ゼルヴァジオと小川のことである。 

 監事三人の内二人は、戦後派二世であった。が、彼らにも、そういう日本人的なところがあったという。

 そこで、どうしたかというと「少数の人が内密に動いた結果、ゼルヴァジオと小川さんに、翌年三月の総会で会長、専務を退き、相談役になって貰うことになり…」そのための根回しを始めた。 

 内密に動いた少数の人とは、監事のことである。当時理事だった一人(戦前一世)は、

 「最も熱心に動いていたのが、監事の誰某だった」

 と言う。

 それとは別人だが、やはり、その時期に監事だった吉泉秀三(コチア青年)も、後に筆者に、

 「監事会として、ゼルヴァジオと小川さんに、相談役就任を求めた」

 と認めている。 

 しかし、これは監事の権限外のことである。

 コチアの監事は、これ以前も以後も、この種の職権逸脱を平気で繰り返している。ある元役員は、こう述懐する。

 「八一年に小川さんが専務になるまでは、監事は役員会に出席しても発言権もなかった。小川さん以降、審議役や理事と監事の区別がつかぬようになった」 

 小川が、それを許したというのであるが、無論、小川に、そんな権限はない。

 で、その「相談役にする」という発想であるが、これは、監事たちが有力単協の役員たちと接触、相談を重ねる過程で生まれたという。

 コチアに於ける有力単協と言えば、まず北パラナである。この北パラナが地理的にも隣接し、以前から緊密な関係にあった聖西(サンパウロ州西部)単協と組んだ。もう一つか二つ、どこかの単協が加われば「決マリ」である。

 ことが、その様に進んでいたと推定できる材料が二、三ある。その一つは、監事三人の内二人が北パラナと聖西から送り込まれていたこと。

 次が、ある有力組合員(戦後一世)の、こんな打明け話である。

 「その頃、聖西の世話役で、こうした選挙の折には、聖西だけでなく、北パラナその他地方の票の取りまとめ役をする太田忠雄という人がいた。

 この人が俺に、今度の選挙では、ゼルヴァジオと小川さんは当選できない、と教えてくれた。太田さんがそう言う以上、もう、できあがっている、と思った」

 もう一つは、やはり有力組合員(二世)のそれで、

 「十月の臨時総会が近づいたころ、北パラナの内部で、ゼルヴァジオと小川さんは、自発的に辞めることはないから、相談役制度を設けて就任させるのがよい、という声が上がっていた」

 という。

 一九八九年十月、臨時総会が開かれ、相談役の新設が決まった。

 その直後、監事会の下部機関として、選挙管理委員会が発足した。翌年三月の総会での役員改選の準備をするためである。

 メンバーは、地方十単協と本部直グループの代表十一人である。委員長は、既述の北パラナのI氏が選出された。

 この委員長と一部委員が、会長と専務をしばしば訪問した。初回は、

 「再選されることを望むかどうか?」

 と聞いた。

 対して二人は、

 「もう一期(三年)やらせて欲しい。それが駄目なら半期でもよい」

 と希望した。

 ゼルヴァジオは、この時点では組合の財務危機に気づいていた。それを解決しておきたい、と思っていたのである。

 しかし委員長たちの次の訪問時の話は「会長、専務を退き、相談役に就任」の説得に変わっていた。「殿、御家老、ご隠居を…」と迫ったのだ。(つづく)


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