芸術フットボールを追い求めて=沢田啓明=第10回=クラブW杯で浦和が敗退したワケ

欧州勢が上位占めるもブラジル勢は大健闘
6月14日から世界の強豪32クラブを集めてアメリカで開催されていたクラブ・ワールドカップ(W杯)の決勝が7月13日に行なわれ、チェルシー(イングランド)がパリ・サンジェルマン(フランス)を3-0で下して優勝した。
決勝は欧州勢の対決となり、ベスト4のうち3クラブを欧州が占めた。
近年、世界のフットボールは、イングランド、スペイン、フランスといった欧州強豪国のリーグが隆盛を極めている。欧州ビッグクラブは豊富な資金を用いて世界各国から優れた選手を買い集め、「世界選抜」のようなチームを作っている。実力からすれば、欧州のクラブが上位を独占しても不思議ではない。
このような状況で、ブラジル勢が健闘した。出場した4チームすべてがグループステージ(GS)を突破し、フルミネンセとパルメイラスが準々決勝へ、そしてフルミネンセが準決勝まで勝ち上がった。
のみならず、国外のクラブに所属するブラジル人選手も活躍した。アジアから唯一、ベスト8入りしたアル・ヒラル(サウジアラビア)では、マルコス・レオナルドが4得点をあげてチームを牽引。フルミネンセは準決勝でチェルシーに敗れたが、相手の2得点は自分たちのアカデミー育ちの選手(ジョアン・ペドロ)によるものだった。
ブラジル人選手は25クラブで計142選手が登録されており、これは世界で最も多かった。
一方、日本からは2022年のアジア・クラブ王者である浦和レッズが出場した。浦和は日本随一の人気クラブとあって、数千人の超えるサポーターが駆けつけて熱烈な応援を繰り広げた。
しかし、初戦でリーベル・プレート(アルゼンチン)に1-3と完敗。続くインテル(イタリア)戦では前半11分に先制したが、その後は防戦一方。後半途中までリードしていたが、終盤に追いつかれ、試合終了間際に逆転を許した。そして、最終戦ではモンテレイ(メキシコ)に0-4と大敗。3戦全敗、得点2、失点9という残念な結果に終わった。
ただし、浦和のグループを勝ち上がったインテルとモンテレイもラウンド16で敗退。上には上があることを思い知らされた。
浦和以外ではレッドブル・ザルツブルク(オーストリア)に日本人選手が2人登録されていたが、FW北野颯太がアル・ヒラル戦で25分間プレーしただけだった(注:ドイツの強豪バイエルン・ミュンヘンに日本代表CB伊藤洋輝が所属するが、故障のためこの大会は欠場した)。
ブラジル勢が揃って健闘した理由
ブラジルのクラブが健闘した理由はいくつかある。
まず、体調面で欧州クラブの選手を上回っていたこと。欧州はシーズンが終わったばかりで、選手たちは疲労をためていた。一方、ブラジルはシーズン序盤で、選手のコンディションはベストに近かった。また、
正午や午後3時開始の試合は非常に暑く、気候条件が欧州クラブの選手を苦しめ、相対的にブラジルの選手を有利に働いた。
さらに、「過去4年間に大陸王者となった場合を除き、一協会から出場するクラブは2つまで」という規定が設けられており、リバプール(イングランド)、バルセロナ(スペイン)といった強豪クラブが出場しなかった。
加えて、ブラジルのクラブには欧州のクラブへの強烈な対抗意識がある。「財力では勝てないが、ピッチでは11人対11人の互角だ」とばかりに闘志を燃やす。
この大会で設定された多額の賞金も、ブラジルのクラブにとって大きな魅力だった。選手も、クラブから多額のボーナスを提示され、高いモチベーションでプレーした。
さらには、応援の力。大勢のブラジル人サポーターが応援に駆け付けた。彼らはアメリカ在住のブラジル人ファンと合体し、熱烈な応援を繰り広げてホームゲームのような雰囲気を作り出した。
戦力面でも、不利な要素を克服した。
本来、ブラジルは多くの優れたアタッカーを生み出す国だが、欧州のクラブがブラジルのトップレベルのアタッカーの大半を連れ去っており、攻撃力の低下が否めない。しかし、ブラジルの強豪クラブの財政状況は南米では恵まれた部類に入り、南米各国の代表クラスのアタッカーを獲得して穴を埋めている。
その一方で、ブラジル国内には守備的なポジションでは高いレベルの選手が少なからず残っている。彼らが欧州金満クラブの攻撃陣を封じて、いくつかの金星をあげた(注:GSでフラメンゴはこの大会の覇者チェルシーを3-1で下し、ボタフォゴは準優勝したパリ・サンジェルマンを1-0で倒した。フルミネンセは、ラウンド16でインテルを2-0で下した)。
浦和敗退は本当に「仕方ない」のか
日本では、「国内最高の選手はこぞって欧州でプレーしている。Jリーグのクラブが欧州のクラブに勝てないのは仕方がない」と考える人が少なくないようだ。
しかし、ブラジルは日本よりはるかに多くの選手を欧州クラブへ送り出している。にもかかわらず、両国のクラブの間でこれだけの差が出た。その理由の一つは、選手育成能力の違いだろう。
1993年のJリーグ創設後、日本も優秀な選手を輩出するようになった。近年では多くの日本人選手が欧州のクラブでプレーし、日本代表はアジアでは圧倒的な強さを発揮。「日本のフットボールは世界のトップに近付いた」と思っている人が多いようだ。
しかし、実は欧州のビッグクラブでレギュラーを張る日本人選手はほとんどいない。これに対し、ブラジル人選手は多くの欧州ビッグクラブで主軸を担う。同じ「欧州でプレーする選手」でも、所属するクラブの格と置かれた立場が異なる。
日本は、ブラジル(やアルゼンチン)と比べると、選手の質と量の両方でまだまだ見劣りする、と言わざるをえない。
なおかつ、所属する外国人選手の質の点でも、欧州や南米のクラブとはかなりの差がある。これは財力の差であり、日本のクラブは収入を増やしてさらに優れた外国人選手を獲得しなければチーム力向上は望めない。
日本のクラブに特徴的なプレースタイルも、世界の舞台ではハンディとなった。
日本では「個の能力では世界トップの選手に太刀打ちできない」という考えが支配的で、守備でも攻撃でも個人で勝負することを避け、組織的にプレーすることを重視する。そのせいもあって、一つ一つのプレーの強度が欧州、南米と比べると総じて低い。
日本が組織力やチームワークを強みにするのは、間違ってはいない。しかし、もっと個の能力を上げ、なおかつプレーの強度を高めなければ、世界のトップチームを倒すのは難しい。
また、先制されるとたちまち自信を失い、プレーが消極的になる選手が多い。厳しい状況を跳ね返す精神的な逞しさも物足りない。
浦和が早々に敗退したことで、日本ではクラブW杯への関心が低かった。しかし、この大会に浦和が出場してアルゼンチン、イタリア、メキシコの強豪クラブと真剣勝負をしたことは、浦和のみならずJリーグの他クラブにとっても、世界での立ち位置を知る上で非常に参考になったはずだ。
日本のクラブは、自分たちに何が足りないのかを分析し、世界との差を埋める努力を続けなければならない。
日本サッカー協会が「2050年までにW杯優勝」という目標を掲げるのは間違っていない。しかし、この壮大な夢を実現するためにやるべきことは、まだまだ沢山ある。