ブラジル音楽界に新旋風のマリーナ・セナ

4月末、ブラジルの音楽界でひときわ注目を集めた存在がいた。それはマリーナ・セナ。ミナス・ジェライス州出身26歳のポップミュージックシンガーだ。
彼女が注目を集めた理由は、4月27日に発表したセカンド・アルバム「ヴィシオ・イネレンテ」が、今年発表されたブラジル人アーティストのアルバムで早くも2番目に多いストリーミング再生回数を記録したからだ。
これの何がニュースなのかというと、それはマリーナがブラジルでは珍しい、インディ・レーベル出身のアーティストで、メジャー移籍後にすぐこのような大成功を収めたことに起因する。
彼女の音楽は、現在の硬直化したブラジル音楽界に投じられた一石と呼んでも過言ではない。現在のブラジルで流行っている音楽といえばブラジル版カントリー・ミュージックのセルタネージョ、もしくはそれをもう少し大衆寄りにしたアコースティック調のポップス。もう一つは黒人や若者に人気のダンス・ミュージックのファンキ、もしくはそれをもう少し強面にした感じのヒップホップぐらいのものだ。
これらに対し、マリーナの音楽は昔ながらの生演奏を主体としたレゲエとソウル・ミュージックを混在させたタイプ。踊れるが、打ち込んだ電子音が主体のファンキなどのダンス・ミュージックとは明らかに違う懐かしい温かさがある。白人っぽさが強すぎるセルタネージョにはない黒人音楽的な要素も強い。
そんな彼女の音楽は、予てから音楽マニアの間で評判が高かった。彼女の存在は90年代の国際的スターとの比較で「マリーザ・モンチの再来」とも称され、人によっては60〜70年代のカリスマ、ガル・コスタと比べる声もある。
「ああ、こういうスターがやっとブラジル音楽界に現れたか」「やっとブラジル代表としてフェスに出しても恥ずかしくない存在が出てきた」。そういう声も聞く。近年、ロラパルーザやロック・イン・リオといった国際的な音楽フェスティバルで国外から音楽界のスーパースター達がよくやってきているが、「そういうフェスでメインを張るアーティストたちと実力差なしで対抗できるアーティストがブラジルにいない」と言われてきたからだ。
昨今、世界の音楽界ではプエルトリコやコロンビアのアーティストがスペイン語圏の中南米を超え、米国で大人気を博す存在になりつつある。そんな中、ブラジル勢は蚊帳の外の印象だった。このブラジルの新星マリーナが今後、ブラジルだけでなく世界的舞台にまで飛び出していくことに期待したい。(陽)