トランプ「我々はブラジルを必要としない」=懸念される関税や強制送還=ルーラ「平和と調和を望む」

20日、ドナルド・トランプ氏が米国大統領に就任した。同大統領は、33分に及ぶ就任演説で保守傾向を強める発言を次々と行っており、ブラジルや南米左派政権に対する風当たりが強くなることが予想されている。
トランプ氏は就任早々、「これからは性は二つだけ」とトランス(性転換者)を始めとするLGBT+の人権を軽視するような発言を行ったのを始め、不法移民への人道支援打ち切りやパリ協定からの離脱、世界保健機構(WHO)からの脱退などの言動を行い、就任早々、物議を醸した。
その矛先は、ブラジルや南米左派にも向けられている。就任式後、ホワイトハウスの執務室で取材を受けたトランプ大統領は、グローボ局の記者からの南米との関係についての質問に対し、「関係は良好だ。彼ら(南米)は我々を必要としている。我々が彼らを必要としている以上にだ。我々は彼らを必要としていない。彼ら、そして皆が我々を必要としているのだ」と語った。(1)
トランプ氏はさらに、同記者からの「ブラジルと中国が共に行ったウクライナ紛争の停戦案についてどう思うか」の質問に対し、「それにブラジルが絡んでいるのか? 初耳だな」と答えている。
この日はこのような返答を行ったトランプ大統領だが、同大統領の裁量次第でブラジルが大きな影響を受けることになることは既に予想されている。その一例はブラジルからの輸出品だ。米国は昨年、ブラジルから、肉類をはじめとした農産品を中心に400億ドル以上を輸入している。米国は中国への輸出額の940億ドルに次ぐもので、同国は伯国に取り、世界第2位の輸出相手国だ。
気になるのは、トランプ氏が既に「ブラジルが米国にかけるのと同率の関税をかけたい」との意向を表明していることだ。関税の引き上げは、ブラジルがBRICS諸国内で流通する新通貨を導入することに積極的に動いていることに対する牽制の意味もある。
同大統領はメキシコやカナダといった隣国に対し、既に25%の関税をかけており、ブラジルに対してもこのような関税が掛けられた場合、大きな痛手となる可能性がある。貿易面では、中国に対する関税引き上げで中国が米国以外の国への輸出を増やした場合、伯国製品を輸入する国や輸入額が減るという間接的な影響も懸念されている。(2)
また、ブラジルから米国に移民した人たちが強制送還される可能性も高まっている。バイデン前政権下では、これまでで最多の1万人以上の違法滞在ブラジル人が強制帰国させられたが、トランプ政権下では23万人ともいわれるブラジルからの違法移民(正規の書類不所持の滞在者を含む)が強制帰国の対象になり得るとみられている。また、米国で生まれ、同国籍を持つ子供も含め、家族ぐるみで帰国させる可能性が強まり、既に訴訟騒ぎも出ている。
加えて、SNSでの「表現の自由」を巡るブラジル最高裁への攻撃や、米国のパリ協定離脱で、米国自身が温室効果ガス削減目標達成放棄や、バイデン氏が約束したアマゾン基金への支援を含む新興国や貧困国への資金面での支援、ブラジルで11月に開催する予定の国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第30回契約国会議(COP30)への参加なども影響を受ける可能性があり、予断を許さない。(3)
トランプ大統領はこの日、ブラジルでの三権中枢施設襲撃事件に影響を与えた、自身の支持者たちが起こした2021年1月6日の連邦議事堂襲撃事件で1500人にも及ぶ襲撃者に対する恩赦も与えている。
ルーラ大統領は、米国民の民意でトランプ氏が大統領に選ばれたことを尊重し、「私たちは平和や調和を望み、意見の相違やトラブルではなく、外交で関係を築きたい」との意向を語っている。
だが、21日付G1サイトによると、ブラジルの外交関係者は「トランプ氏は極右勢力の再編を試みるだろう。長く、厳しく、非対称的な戦いになるだろう」との見解を示しているという。(4)