エクアドル大統領選=親米右派ノボア氏が再選=強硬な犯罪対策に批判も

エクアドルで13日、大統領選の決戦投票が行われ、開票率94%を超えた時点で、現職で保守派ダニエル・ノボア大統領(37歳)が有効票の55・83%を獲得し、左派の元下議ルイサ・ゴンサレス氏の44・17%を抑えて、再選を果たした。得票差は100万票以上に上るが、ゴンサレス氏は不正を主張し、票の再集計を求めていると同日付G1(1)が報じた。
簡潔な演説と鋭い眼差し、厳重な警備に囲まれた姿が印象的なノボア氏は、この選挙戦でも「麻薬組織との戦いを倍加させる」と強硬策による継続的な治安改善を強調。投票前日の12日には治安悪化を受け、全国24州中7州に60日間の非常事態を発令。首都キトと全国の刑務所も対象とした。
ノボア氏は米国生まれで、ハーバード大などの名門大学で経営や行政を学んだ。35歳だった23年、ギジェルモ・ラッソ前大統領が議会を解散し、汚職疑惑による弾劾を回避するために行われた繰り上げ選挙で当選し、同国史上最年少の大統領となり、25年5月までの残り任期を務めていた。再選によって4年間の任期を得たことで、5度大統領選に挑んで敗れたバナナ業界の実業家である父のアルバロ氏の悲願を〝超えた〟形にもなった。
重装備姿で戦車の上から犯罪組織に警告を発する一方、SNSではカジュアルな服装でギターを奏で、英語で歌を口ずさむなど、柔軟なイメージ戦略を展開。支持層との距離も近く、街中ではハグや自撮りに気さくに応じた。遊説では同氏の等身大パネルが配られ、話題を呼んだ一方で、演説や記者会見を避ける傾向が強く、その手法からエルサルバドルのナジブ・ブケレ大統領との類似性が指摘されている。実際、巨大刑務所センター建設や刑務所船の導入など、一部の政策はブケレ氏のモデルを踏襲したとされる。
ただ、強硬策には人権団体からの批判も根強く、軍の展開や「内戦状態」の宣言による過剰な武力行使が懸念される。例えば、グアヤキルでは軍人16人が関与したとされる事件で4人の少年が殺害され、遺体が焼かれるという凄惨な事案も発生した。
外交面では左派政権との緊張も続く。最近では、汚職で有罪判決を受けた元副大統領ホルヘ・グラス氏の身柄を確保するため、メキシコ大使館への警察突入を命じた結果、メキシコとの国交断絶に発展した。
また、選挙戦終盤にトランプ米大統領に支持を求めた他、治安対策として、民間軍事会社ブラックウォーターUSA創設者エリック・プリンス氏との協力も発表し、国外の軍事的支援を得る姿勢も示している。
ノボア氏は、現在の殺人発生率を「23年の人口10万人あたり47人から、24年には38人へと引き下げた」と主張しているが、シンクタンク「インサイト・クライム」によれば、24年の同国はラ米で最も人口比での殺人件数が多い国となっている。
再選を果たしたノボア氏は、自らを中道左派と位置づけているが、実際の経済政策では新自由主義的な中道右派的路線をとっている。側近の多くは学生時代からの友人たちで構成されている。
元妻ガブリエラ・ゴールドバウム氏は、ノボア氏が娘との面会を妨害し、心理的虐待を行ったとして複数の訴訟を起こしており、議会でも「女性に対する暴力的存在」と非難。また、ベロニカ・アバド副大統領も、性差別的な扱いを受けたとしてノボア氏を訴えており、女性問題への対応も課題となっている。
サンパウロ連邦大学国際関係学教授レジアニ・ブレッサン氏はCBNのニュース番組で、ゴンサレス氏が選挙結果を疑問視するなど、「選挙結果を巡る混乱が同国の不安定さを強調している」と指摘。また、電力危機や干ばつ、麻薬密輸といった第1期の政権の課題により、再選は難しいとの見方もあったが、極右の台頭と地域全体の右派化の流れがこうした逆風を上回る追い風となり、ノボア氏の再選を後押ししたと分析した。
また、ノボア氏とトランプ氏との政治的連携にも触れ、「南米地域の連帯に高い関心を持つブラジルにおいて、大きな懸念材料となっている」と指摘。加えて、ノボア氏が一部の州で決選投票直前に非常事態を宣言した点についても、越境犯罪組織の影響と国内の貧困や失業の増加が犯罪や非公式経済を助長している現状を指摘した。(2)