中東情勢不安がブラジル農業直撃=肥料急騰と肉輸出停滞リスク

中東地域におけるイスラエルとイランの軍事衝突に加え、米国の介入が緊張を一層高め、ブラジルの農業セクターにも深刻な影響が及び始めている。特に、肥料の主要品目である尿素の供給不足と価格高騰、さらにイスラム法に従って処理されたハラール肉を中心とする中東向け輸出における物流の混乱が顕著となっており、今後のアグロビジネス全体に持続的な打撃を与える可能性があると24日付グローボ・ルラルなど(1)(2)が報じた。
軍事衝突は既に、尿素価格の急騰を招いている。金融コンサルティング会社ストーンXによれば、戦闘開始から11日間で尿素の国際価格は1トンあたり約33・5ドル上昇し、20日の時点で432・50ドルに達した。この価格は前年同期比で約40%高く、さらなる高騰も見込まれている。
また、イランとエジプトの肥料工場では、戦争による安全保障上の懸念や、イスラエルからの天然ガス供給減少の影響で生産が停止している。ストーンXの市場アナリスト、トマス・ペルニアス氏は、こうした供給途絶は国際市場の購買者にとって「重大な懸念材料」だと指摘。特にホルムズ海峡周辺を通過する航路では、海上輸送にかかる保険料や運賃が上昇し、物流コストが肥料価格の上昇に拍車をかけているとし、「需要や政治情勢の不透明さから販売を控える売り手も出ている」と分析している。
ホルムズ海峡は世界の原油の約20%が通過する重要な海上交通路で、同海峡封鎖の可能性が国際的な懸念を呼び起こしている。イラン議会は既に封鎖を承認しており、情勢次第で実行に移される可能性がある。封鎖が現実となれば、ブラジルから中東へのハラール肉輸出にとっても、主要な輸送ルートが遮断されることになる。
ブラジル動物タンパク質協会(ABPA)によれば、イラク、クウェート、カタール、バーレーンの4カ国は、月間約2万8千トンのハラール鶏肉をブラジルから輸入しており、これらの国々への輸送が困難になれば、トルコ経由の代替ルート確保が迫られる。ABPAのリカルド・サンチン会長は、「現時点では物流コストの上昇は確認されていないが、将来的には遅延や供給障害が起きる可能性がある」と述べている。
食肉輸出の不透明さは肥料市場の混乱と重なり、ブラジル農業界にとって二重のリスクとなっている。さらに、原油・天然ガス市場の不安定化が燃料や農業資材価格に波及すれば、農家の収益はさらに圧迫されるようになる。
また、トウモロコシ、大豆、小麦などの主要穀物も価格変動の影響を受けている。これらの作物は尿素などの窒素肥料を多用するため、肥料価格の高騰は生産コストの増加を通じて農業経済全体に影響を与える。穀物相場の上昇がコストをある程度相殺する可能性はあるが、為替の変動や長期契約の不確実性もあり、農業生産者らの経営環境は一層厳しさを増している。
こうした中、トランプ米大統領がイスラエルとイランの「停戦合意」に言及したことで、一時的な緊張緩和への期待も広がった。ただ、合意内容は不透明な上、現地情勢も流動的なままであり、地政学的リスクが完全に払拭されたとは言えない。とりわけ、夏作の播種期を迎える下半期にかけては窒素肥料の需要が増すため、農業従事者にとっては供給リスクを見据えた戦略的な資材調達が求められる重要な局面となっている。