サンパウロ市貧民街の住環境改善で合意=住民移転と都市再生を段階的に

連邦政府とサンパウロ州政府は26日、サンパウロ市中心部の国有地にある貧民街「ファヴェーラ・ド・モイーニョ」の住民に対する住環境改善に向けた合意を締結した。本合意は、同地域における治安対策及び都市再生計画の一環と位置づけられており、住民の円滑な移転と新居取得を支援するため、両政府が協力して住宅供給及び家賃補助を実施することを柱としている。今後は、住民の尊厳を尊重しつつ、段階的に移転を促進すると共に、土地の公園化や地下鉄の駅建設を含む都市整備計画を進める見込みと26日付G1サイトなど(1)(2)が報じた。
ルーラ大統領は同日、現地に赴き、住居と簡易学校施設を視察した後、合意実施通達に署名。「この土地にどれほど美しい公園を作っても、人間の犠牲の上に成り立ってはならない」とも述べた。
モイーニョはサンパウロ市中央部に残る最後のファヴェーラで、約900世帯が住んでいたが、移転計画が始まった4月以降、約2カ月間で380世帯が退去。うち少なくとも5世帯は新居に移ったが、その他の世帯には、新居が決まるまで、1200レ/月の家賃補助が支給される。月収4700レ以下の世帯には、連邦政府の「ミーニャ・カーザ・ミーニャ・ヴィーダ」18万レとサンパウロ州政府の「カーザ・パウリスタ」7万レの補助が支給されるアパートが提供される。新居は市中心部や州内の物件の中から、1世帯最大25万レという条件で自由に選べる。
住民は12カ月以内に新築・中古・建設中の物件から新居を選ぶ必要がある。書類上の不備がある場合は、60日以内に再提出しなければ資格を失う可能性がある。移転手続きはサンパウロ州政府が管理し、正式な引き渡し書類が交付される。
マルシオ・マセド大統領府総務室長官によれば、500世帯は既に物件を選択済みで、残りは選定中だ。移転完了までには、両政府の緊密な連携と住民の合意形成が不可欠とされている。
モイーニョは国有地のため、サンパウロ州政府への譲渡手続きが進んでいるが、住民への住宅支援の保証が条件。ルーラ大統領は住民の尊厳が守られるまで譲渡しない方針を示している。
連邦政府は立ち退きに際する警察の強権使用に懸念を示しており、「強制力の行使に反対し、交渉による解決を望む」との声明を出した。5月には土地譲渡手続きが一時停止されたが、追加協議で合意に至った。エステル・ドウェック管理革新相は「住民は自由意思で移転すべきで、強制立ち退きは認められない」と明言している。
住民からは、「家賃補助はありがたいが、具体的な新居の場所がまだわからない」という声が聞かれる。住民の1人、レジナルド・ロドリゲスさんは、「できれば中心部に住み続けたい」と話す。アリーネ・ソウザさんはかつてモイーニョで暮らしていたが、強制退去を恐れて移転。現在はボン・レチロ地区で月1700レの家賃の家に住んでいるため、政府からの月1200レの補助を上回る500レを自己負担しなくてはならず、補助だけでは生活が厳しいと話している。
今後は、譲渡手続きの完了と住宅供給の進展により、サンパウロ市中心部の治安向上及び都市再生が期待される一方、住民の生活再建に向けた社会的支援体制の充実が課題となる。両政府は、移転が円滑かつ人道的に進むよう、慎重な対応を約束している。