【19日の市況】Ibovespaは前日比2.10%安の13万4,432ポイント/STF判断と米国制裁の板挟みで銀行株急落
ブラジル・米国間の緊張高まる
STF判断と米国制裁で銀行株急落、Ibovespaは4カ月ぶりの大幅下落
ブラジル株式市場は19日、銀行株を中心に大幅下落し、主要株価指数イボベスパ(Ibovespa)は前日比2.10%安の13万4,432ポイントで取引を終えた。1日の下げ幅としては4月4日以来4カ月ぶりの大きさとなる。背景には、米国が最高裁判所(STF)のアレシャンドレ・デ・モラエス判事に対し「マグニツキー法」に基づく制裁を発動したことに対し、STFのフラーヴィオ・ジノ判事が外国制裁の国内適用を制限する判断を下したことがある。両国関係の緊張が高まる中、ブラジルの金融機関が国際的な板挟みに陥る懸念が強まり、市場心理を冷やした。
銀行株が総崩れ
市場で最も売られたのは銀行株であった。国営のブラジル銀行(BBAS3)は前日比6.03%安、サンタンデールは4.88%安、取引所運営のB3も4.79%安と急落。イタウ・ウニバンコは3.84%安、ブラデスコも3.43%安を記録し、主要金融株はいずれも大幅に値を下げた。市場関係者からは「米国の制裁とSTFの判断が交錯する中で、銀行が国際金融システムから切り離されるリスクを懸念する投資家が増えている」(ポテンザ・キャピタル、ブルーノ・タケオ氏)との声が上がる。
STF判断がもたらす「板挟み」
ジノ判事は18日、外国での司法判断や制裁は、ブラジル国内では最高裁の承認や国際的な司法協力を経なければ効力を持たないと決定した。形式上は従来の法解釈を再確認した形だが、モラエス判事が米国のマグニツキー法により資産凍結やサービス提供禁止の対象となったことを受け、今後の適用を巡り大きな不透明感を生じさせた。
ブラジルの大手銀行は米国市場や多国籍企業との取引を多く抱えており、米国法に従わなければ国際取引から締め出されるリスクがある。他方で、国内ではSTFの命令に背くことはできず、「金融機関にとって前例のない複雑かつ解決困難な状況」(大手銀行幹部)との指摘が相次いでいる。
「ブラジルに選択肢なし」
ロイター通信によれば、大手銀行幹部は「OFAC(米国財務省外国資産管理局)の規定に基づく対応は、すべてSTFの承認が必要になる。だがOFACの決定に従わなければ国際金融ネットワークから排除される。ブラジルに選択の余地はない」と語った。米国大使館も「いかなる外国裁判所も米国の制裁を無効化できない」と声明を出し、ジノ判事の判断を牽制した。
市場心理悪化、ドル買い株売りに
この日の市場では、投資家がリスク回避姿勢を強め、ドル買い・株売りが広がった。レアルは対ドルで1.19%下落し、1ドル=5.499レアルまで下落。将来の金利動向を示すDI(利付国債先物金利)も全ゾーンで1%超の上昇を見せ、国債市場にも動揺が広がった。
アクシア・インベスティングのサンチアナ氏は「米国からの情報が限られ、今後の展開が読めない。銀行株だけでなく小売り、鉄鋼、鉱業といった他セクターにも売りが波及した」と解説する。
銀行以外の動き:石油・エネルギー株も下落
銀行以外でも下落が目立ったのは石油関連株だ。ペトロブラス(PETR4)は1.05%安、国際原油価格がロンドンやニューヨークで下落したことに加え、同社がライゼンとの共同事業計画を否定したことで、ライゼン株は9.57%安と急落した。
小売大手アサイ(ASAI3)は3.98%安、ロージャス・ヘンネル(LREN3)も2.10%安と、アナリストの買い推奨にもかかわらず大幅安となった。
一方で食肉・製紙株が健闘
全体の84銘柄中、上昇で取引を終えたのはわずか5銘柄にとどまったが、食肉大手ミネルバ(BEEF3)は2.93%高、マルフリグ(MRFG3)も0.17%高と小幅ながら上昇。米国での食肉価格上昇やドル高が追い風となった。製紙大手スザノ(SUZB3)も0.78%高、製薬のハイペラ(HYPE3)が0.48%高を確保した。資源大手ヴァーレ(VALE3)は鉄鉱石価格下落に押されつつも0.08%高と小動きにとどまった。
政治の影響:下院は規律強化へ
市場の混乱に追い打ちをかけるように、国内政治でも緊張が走った。下院は同日、議会活動を妨害する議員に最大6カ月の出席停止処分を科す決議案を緊急扱いで採択。これは、ボルソナロ前大統領を支持する議員らが本会議場を30時間以上占拠した行動を受けたものだ。野党は「言論の自由を脅かす」と反発したが、与党・中道勢力の多数派が支持し、今週中にも本会議採決に持ち込まれる見通しだ。
投資家は「不透明な未来」を警戒
「市場は常に未来を織り込むが、いまはその未来があまりに不透明だ」。アナリストの言葉通り、銀行株を中心とする急落は、投資家の先行き懸念を如実に示した。米国トランプ政権による追加関税措置やウクライナ情勢の混迷も重なり、国際環境も予断を許さない。
イタウBBAのテクニカル分析では、イボベスパは短期的に13万8,500~14万1,600ポイントの抵抗線を上抜けられず、下値は13万1,500ポイント近辺の200日移動平均線が意識される水準となる。
結論:金融主導の調整局面
19日の下落は、銀行株に集中した売りが市場全体に波及した典型例であり、国際政治と司法判断が株式市場を直撃した格好となった。モラエス判事への米国制裁とジノ判事の判断は、ブラジルの金融機関を「選択肢なき板挟み」に追い込み、投資家にとってのリスク要因を一段と高めた。
市場関係者の間では「即時的な危機にはつながらない」との声もある一方、米国とブラジルの外交的対立が長期化すれば、国際資本の流入が鈍化し、リスクプレミアムが拡大する懸念は拭えない。ブラジル市場は当面、政治と外交の一挙一動に翻弄される展開が続きそうだ。