異例の元大統領4人同時収監=ペルーのビスカラ氏拘束で

ペルー司法当局は13日、マルティン・ビスカラ元大統領に対し、逃亡の恐れがあるとして5カ月間の予防拘禁を命じ、首都リマにあるバルバディージョ刑務所に収監した。同氏は、モケグア県知事を務めていた2011〜14年に、公共事業の見返りに建設企業から賄賂を受け取った疑いが持たれている。同刑務所には現在、ビスカラ氏を含む4人の元大統領が収監されており、複数の元国家元首が同時に収容される極めて異例の事態となっていると同日付ドイチェ・ヴェレなど(1)(2)が報じた。
同日、ペルーの裁判所で開かれた公開審理において、担当のホルヘ・チャベス判事は、検察側の主張を認める形で予防拘禁を決定した。ヘルマン・フアレス検察官は、ビスカラ氏が県知事時代にかかわった灌漑工事および病院拡張工事をめぐり、関連企業からそれぞれ230万ソル(約9600万円)、180万ソル(約7500万円)の賄賂を受領したと主張している。判事は、証拠隠滅や国外逃亡の可能性があると判断し、拘禁措置を支持した一方で、今回の決定は有罪認定を意味するものではないと明言した。
ビスカラ氏は2018〜20年に大統領を務めたが、任期途中に弾劾され失職。退任後は政界復帰を模索していたが、これまでに3件の有罪判決を受け、10年間の公民権停止処分が科されている。本人は判決の取り消しを求めて法廷闘争を続けており、2026年の大統領選挙への出馬意欲も示していた。
同氏が収監されたバルバディージョ刑務所は、国家警察の特殊作戦局本部内に設置された特別施設で、2000年代初頭にアルベルト・フジモリ元大統領専用の拘禁施設として整備された経緯がある。フジモリ氏は1990〜2000年まで政権を担い、人道に対する罪などで有罪判決を受け、2007〜23年までの間、恩赦による一時的な釈放を挟んで、同施設に収容されていた。
同刑務所の収容者数は長らくフジモリ氏1人に限られていたが、ブラジルの汚職事件「ラヴァ・ジャット作戦」がペルー政界に波及し、建設大手オデブレヒト社による贈収賄が次々と摘発される中で、政治家の収監が相次いだ。2017年にはオジャンタ・ウマラ元大統領が収監され、翌年に一時釈放されたものの、2025年に同事件で汚職罪により懲役15年の有罪判決を受け、再び同所に戻っている。
2022年12月には、ペドロ・カスティジョ元大統領がクーデター未遂により罷免された直後に拘束され、収監された。カスティジョ氏の大統領在任期間はわずか1年半に満たなかった。2023年にはアレハンドロ・トレド元大統領が資金洗浄容疑により20年の実刑判決を受け、同所に収監された。こうして、バルバディージョ刑務所は複数の元国家元首を同時に収容する、異例の施設となっている。
一方、同刑務所には収監されていないものの、2016〜18年にかけて政権を担ったペドロ・パブロ・クチンスキ元大統領もオデブレヒト事件に関連した汚職容疑で捜査を受け、2019〜22年まで自宅軟禁下に置かれた。2025年現在も出国禁止などの制限措置が継続している。
アラン・ガルシア元大統領(1985〜90年、2006〜11年)は、2019年に拘束命令が出された際、首都リマの自宅で拳銃自殺を図り、命を落とした。同氏もオデブレヒト社からの賄賂受領疑惑に関与していたとされている。
1980年の民政復帰以降、ペルーでは11人の大統領経験者のうち、退任後に司法当局の捜査や訴追を受けなかったのは4人にとどまる。現政権下においても、司法と政治が交錯する構造は解消されておらず、国家の統治基盤に対する根深い不信が続いている。