【コラム】笠戸丸から大阪万博-農業と未来(16)奥原マリオ純

ルーラ大統領、サンパウロ市のヌーネス市長、ゴイアス州のカイアド知事に続き、今度はパウロ・テイシェイラ農業開発・家族農業相が訪日した。ブラジル輸出投資振興庁(APEX)の招きにより、大阪・夢洲で開催されている「大阪・関西万博2025」に出席したものである。
万博会場では「公正で持続可能な食料ガバナンス」をテーマとした会合に参加し、家族農業を基盤とする食料安全保障の重要性を強調した。同相は、誰もが公平に食にアクセスできるようにする政策の意義を訴え、ブラジルで進められている農村支援の取り組みを紹介した。
8月14日には、大阪府八尾市の農場「東山ベジフル」を視察。同社は有機ビートの専門農家として日本最大の生産を誇り、2024年には32トンの出荷実績を達成した。
「1908年に笠戸丸でブラジルに渡った日本人移民は、洗練された農業の伝統を残した。今日のブラジル農業の一部には、日系社会の強い存在感がある」と、テイシェイラ氏は食料安全保障と動物性タンパク質をめぐる討議で述べた。現在のブラジルは、農産物を世界に広め、市場を多様化させる好機にあるという。
同相の言葉には裏付けがある。夫人は山口姓を持つ日系人であり、自身も7人の日系ブラジル人の父として日本文化に深く親しんできた。日系人農家の存在を高く評価する姿勢は、農業開発省が掲げる「家族農業こそ国の食料安全保障と発展の基盤」という理念と軌を一にする。
万博への参加は単なる儀礼にとどまらない。そこには「日系社会の歴史と、その農業を通じたブラジル発展への貢献を国民的遺産として認め、広く次世代に伝えるべきだ」との強いメッセージが込められている。学校や公共空間、そして政治の場で、この記憶が共有され、尊重されることを願いたい。