JICA協力隊員リレーエッセイ=ブラジル各地から日系社会を伝える=(42)=言ノ葉の中にあるもの、その先にあるもの=ブラジル日本語センター=芦田園美

「それ、面白そう!」
私がアフレコ・コンテストのアイディアを話すと、相手の反応はいつも明るかった。これは、JICAボランティアとしてブラジルに派遣され、日本語学習者を増やすために活動することが決まった直後に思いついたアイディアだった。習得が難しいと言われる日本語を、大人気アニメのアフレコを通じて楽しみながら身につけてもらえたら─そんな願いから企画した。
私の配属先であるブラジル日本語センター(CBLJ)は、今年40周年を迎える。そこで記念イベントとしてアフレコ・コンテストを提案したところ、理事長や理事、職員、大学教授、日本語教師の方々が興味を持ってくださった。
まずは理事・職員向けにアフレコ体験会を企画し、配役やアフレコについて説明し実際に挑戦してもらった。すると、想定以上の出来栄えになった。協力しながら一つのシーンを作り上げていく中で回を重ねるごとに息が合うようになり、収録後には「楽しかった!」「達成感があった」という声が上がった。
その手応えが、大きな一歩となり、ブラジルで人気のアニメを使ったアフレコ・コンテストの開催に向けてライセンス交渉を始めた。
私は、テレビ番組制作会社で37年間勤務していた経験から、権利処理の難しさは覚悟していたが、今回は想像以上だった。出版社や放送局に何度も説明したが、「一般の人がアフレコする」という新しい試みに理解を得られなかったのだ。
心が折れかけていた時、JICAブラジル事務所の所長と調整員が力を貸してくださり、出版社への働きかけをしてくれた。その結果、ブラジルでも大人気のアニメ『カードキャプターさくら』でアフレコできることが決定。講談社をはじめ関係各所の協力も得られ、PRを進めていくことが出来た。

実務面では、CBLJの事務局長が実行委員会を立ち上げ、2月には南米初となるアフレコ・コンテストを正式に発表。7月にサンパウロで行われた日本祭りでは、CBLJブースで体験イベントを開催し、約300名の来場者がアフレコに挑戦した。
参加者は、それぞれに役作りをして一生懸命セリフを読み上げる。挑戦した後の何とも言えない笑顔とスタッフの拍手がブースを包み、その光景は、私にとって忘れられないものとなった。
思えば、この企画はアフレコ・コンテストという見たことのない種について仲間に語ったところから始まった。そして面白がって大切に育ててくれる人と一緒に種を植えた。
種はブラジルの豊かな大地で芽を出し、しっかりと根を張ろうとしている。これから葉が芽吹いてゆく中で、コンテスト参加者が読むセリフとその中に込められたものが言ノ葉となり枝葉を茂らせていくであろう。
その言ノ葉を集めて、たくさんの人のところへ届けたい。私はもうすぐ日本へ帰るが、CBLJの樹木には来年も新しい言ノ葉が生まれ、仲間の力で広がっていくに違いない。その成長を応援し、必要があれば力を添えていきたいと思う。